
「皇帝が支配する国」というのが帝国の定義だ。国王ではなく皇帝。皇帝は国王を超えた存在だ。
世界(地球)には文明が発達しやすい地域がある。古代オリエント(ヨーロッパから見て近東)・中国・インドなど。
その後、ヨーロッパが急速に成長する。米(東アジア)と小麦(ヨーロッパ)をカロリーで比較すれば、米が圧倒的に優位だ。ヨーロッパは機械化を進めないと豊かになれない。東アジアは機械化する必要はない。ヨーロッパが産業革命を実現することで、東アジアに対して優位に立ったのが近現代だ。
ヨーロッパが植民地化に進むのも歴史の勢いだが、イギリスは間接統治、フランスは直接統治。独立運動が起きても、イギリスはさっさと撤収できたが、アルジェリア戦争のような泥沼の戦争をフランスは強いられた。
ヨーロッパには遅れたが、維新後、日本も近代国家になった。国のサイズが重要、とこの本は指摘する。中国のような大国は細かい動きがしにくい。加えて儒教の伝統がある。「過去は今より優れている」という保守思想によって改革は進まない。
その隙を縫って、日本は韓国併合(1910年)を実現する。そんな日本に対して、特にアメリカは警戒的だ。それが、1921年のワシントン会議で露呈した。戦艦の保有比率で、米英をそれぞれ「10」とし、日本は「6」との議論が表面化した。米英合計は、日本の3倍以上だが、日本はこれをのむしかなかった。その流れが20年後の日米戦争へとつながっていく。
第1次大戦での敗者ドイツへの厳しすぎる制裁(1919年、ベルサイユ条約)がヒトラーを生み出した。第2次大戦の原因の一つだったことは確かだ。
「帝国」という切り口で、複雑な世界史の全容に迫った本だ。対談本ではあるが、内容は濃厚だ。
文芸評論家・菊田 均
中公新書ラクレ 定価1155円