
天然資源の少ない日本では、国を挙げて、教育・研究に予算を投じて優秀な人材を育てる必要性が指摘されてきた。こうして、「科学技術立国」を掲げてきたが、大学などの高等教育への公財支出は、対GDP比で見ると、OECD諸国の中で最低水準の状況が長く続いている。
本書の副題は、「法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?」である。2004年から施行されてきた「国立大学法人化」によって、国立大学の教職員の人件費や研究費に使われる基盤経費として各大学に運営費交付金を付与されているが、05年度から24年度までに、13%、総額1631億円減額した。
さらに財務省が主導し、運営費交付金の中に「傾斜配分枠」を持ち込み、国立大学を激怒させた。さらに、研究費が欲しければ他研究者との競争に勝つと受領できる「選択と集中」政策を押し付けている。
取材班が訪れたのは、明治初年からわが国の近代化に多大な指導力を発揮してきた旧制七帝大であった。そのうちの四大学は、いずれも23~24年にそれ以外の国立大学より多額の予算が投入されているはずなのに、校舎の一棟全部のトイレが和式であったり、電気節約のために廊下が薄暗く、猛暑の中でも弱エアコンといった状態であった。
この「法人化」で、人件費の関係で教員の採用ポストが減少している。週1回講義に月3万円支払う非常勤講師か5年の有期ポストしか残されていない。
04年の国立大学協会の調査によると、23年度の40歳未満の国立大学教員の任期付き割合は59・3%である。大学の財務状況が厳しくなると、多くの大学は人件費を削減しようとする。つまり低待遇で雇える任期付き教員や非常勤講師は、いざという時に「雇用の調節弁」になるのだろう。
ノーベル賞受賞者を出している旧制帝大でもこのように扱っている現実を見せつけられ、これからの大学はどうなるのだろうか、感嘆久しゅうするのは私一人ではあるまい。
法政大学名誉教授・川成洋
朝日新書 定価924円