トップ文化書評『死の瞬間』春日武彦著 人体や葬送巡る文化的考察【書評】

『死の瞬間』春日武彦著 人体や葬送巡る文化的考察【書評】

『死の瞬間』春日武彦著 朝日新書 定価990円

 『死の瞬間』となっているが、「死」全般について書かれた本だ。

新聞の死亡記事。「この人はとっくに亡くなっていたと思っていたのに……」と驚くことが多い、と著者は言う。「まだ生きていたんだ……」という感覚。

「死ぬと体重が21g減る」話。事実のようだと著者は言う。が、「21g」の話は世界的に詳しい説明はなされていないようだ。

フランス革命のギロチン。切断された頭部にはしばらくのあいだ意識や感覚が残っている、という噂(うわさ)が流れていた。

1905年の話。医学博士が処刑直後の囚人に呼び掛けたところ、まぶたが開いて、紛れもなく生きた目が博士を見つめた。著者は眉唾物と言うが、首の切断と脳神経系の機能の停止の間には、1~2秒程度の誤差はあるかもしれない、とのことだ。

土葬は日本では少ない。著者は土葬が苦手のようだ。土中で腐敗してゆく死体を想像すると苦痛だ、という。火葬で灰になった方が気楽、と著者は言う。

2020年の葬送は143万件。うち、土葬は393件。1938年ごろから、都市部では火葬が激増した。土葬は違法ではなく、霊園に土葬の準備がないとか、葬儀社に土葬のメニューがない、などが理由のようだ。が、今どき土葬をすれば、多大な費用がかかりそうだ。

火葬の実際。それを間近に見ることはなかなかないが、残った骨は生前の命の残り火という気がしてならない。

死体の顔を見ると違和感を覚える、と著者は言う。「精巧に作られたニセモノ」のように感じられるのだ。生命活動が終わっているのだから当然だが、違和感は消えない。自分の親の時もそうだった、と告白する。

医学生時代、1年近くかけて、男性老人の遺体を3人の同級生と共に解剖したことがあるという。「1年」という長さがすごい。

文芸評論家・菊田 均

朝日新書 定価990円

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