トップ文化書評『道徳的人間と非道徳的社会』政治とは良心と権力との衝突 ラインホールド・ニーバー著【書評】

『道徳的人間と非道徳的社会』政治とは良心と権力との衝突 ラインホールド・ニーバー著【書評】

『道徳的人間と非道徳的社会』 岩波書店 1430円
『道徳的人間と非道徳的社会』 岩波書店 1430円

ラインホールド・ニーバー(1892~1971年)は、20世紀の米国を代表する神学者で、キリスト教現実主義の立場から政治と倫理を巡る相克に関して独自の考察を展開した。

本書は米国で1932年に出され、60年に再版され、2021年に新版が出された。二つの世界大戦のはざまで、欧米の政治社会はじめ共産主義の問題からトルストイやガンジーに至るまで広範囲に論じている。

この著書は、宗教的・世俗的モラリストへの批判に向けられた。彼らは、人間の合理性が発展し、宗教的霊感による善の意志が増大すれば、個人のエゴイズムは抑制されていくと考えていた。その過程が持続すれば、社会的な調和が成されていくだろうと主張した。

著者はこの仮定こそ、深刻な道徳的政治的な混乱を招いていると批判した。

本書で展開される主張は、個人の道徳的社会的な行動と社会集団―国民、人種、経済的な集団―の道徳的社会的な行動とは、区別されなければならないということ。個人は道徳的であり得るが、社会集団の場合、衝動を抑制するのが困難で、理性的に働くこともなく、自己超越的な能力は不十分で、エゴイズムが見られるようになるからだという。

しかもそれが大規模組織になると、強制なしに保持することが不可能となる。統合は強制する能力によって作り出されるからだ。「政治とは、歴史の終わりにいたるまで、良心と権力がぶつかり合う場であり続ける。そこでは人間生活の倫理的要素と強制的要素が浸透しあい、不確かで不安定な妥協がつくりだされる」

特権階級やプロレタリア階級についても分析するが、鋭い分析に関心させられるものの、この著書から希望は見えてこない。当時、産業社会の時代が進んでいたが、「それは、人々を永続的に苦しめてきた不正義をさらに悪化させる傾向にある」とみていた。(千葉眞訳)

増子耕一

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