
今の日本は、働く社会人にとって選択の回数が増えた社会だと著者は指摘する。新卒から定年まで一つの会社で働き続けることが当たり前でなくなり、就活と定年退職以外に転職、副業、学び直しなど、職業生活における選択を何度も経験する人が少なくない。
日本の転職希望者は2023年に初めて1000万人を超え、20~30代だけでなく40~50代の希望率もどんどん伸びている。こうした動きを著者は否定せず、むしろ肯定的に捉えている。2000~10年代に「ブラック企業」という言葉が一般化したことが大きく手伝い、職場環境が全体的に過ごしやすくなってきていることは否めないだろう。そしてこれは、不可逆的な変化なのだと強調する。
ここ10年余り、働き方改革の余波を受けて日本の職場環境は目まぐるしく変化しているが、中でも注目すべきは余暇の時間(可処分時間)が増えたことだ。24歳以下の就業時間は2013年から23年で約20時間減ったという調査がある。
残業が制限された結果、昔の新人なら数年で覚えた仕事も、今の若手はより長期間かける必要が出てくる。さらに企業は若手育成に手間暇をかけられなくなり、新人を手取り足取り育ててくれる時代は過ぎ去った。
キャリアアップを目指す社会人は、可処分時間を使って「自分で自分を育てる」ことになる。そのためヒアリングとデータによる丁寧な分析を通じ、著者は優しい語調で若手社会人へのメッセージを本書にしたためた。
今の時代のキャリア形成で大切なのは、「寄り道」と「近道」のバランスだという。寄り道は例えば、学び直しや兼業・副業を通じて新しい挑戦をするなど。近道は今自分の働いている環境に意味付けをすることなどがある。いずれにしても、何か行動を起こすことが重要だ。
豊かな職業人生を送れるかどうかは、自身の選択に懸かっている。
辻本奈緒子