トップ文化書評『ラテンアメリカ文学を旅する58章』時代網羅した作家・作品論【書評】

『ラテンアメリカ文学を旅する58章』時代網羅した作家・作品論【書評】

『ラテンアメリカ文学を旅する58章』 明石書店 定価2200円
『ラテンアメリカ文学を旅する58章』 明石書店 定価2200円

昨年7月、ラテンアメリカ文学の一大旋風が巻き起こった。コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』(鼓直訳)の新潮文庫である。発売3カ月で33万部を超えたとNHKまでもが報じた。さらに、嬉(うれ)しいことにガルシア・マルケス以外の多種多様な翻訳小説が書店に賑(にぎ)わいを見せるようになっている。

こうした状況にさおさすというべきか、実にタイミングよく本書が刊行された。本書はラテンアメリカ文学史ではない。58章の作家論ないし作品論である。各論の執筆者は、その作家の国が甘受せざるを得なかった1492年以来の残酷非道な植民地、1809年以降の自己犠牲的な独立運動開始、独立後の稚拙な統治体制のための政治的対立、20世紀前半の米国陸軍の武力駐屯などを十分に知悉(ちしつ)しているために、その作家の実生活を追体験し、現地踏査した成果を織り込み、実に生き生きとした作家論・作品論となっている。

ところで、「言語は帝国の伴侶」たるスペイン語とスペイン文学を甘受したラテンアメリカ文学は常にスペイン文学の後塵(こうじん)を拝していると思われがちだが、19世紀後半のラテンアメリカに色彩と音楽性を備えた「象徴主義」の変奏といえる詩形である「モデルニスモ」という文学運動が生まれた。これはニカラグアの詩人ルベン・ダリーオが主唱し命名したものである。折しも、1898年、キューバ独立を巡って米西戦争が勃発し、惨敗したスペインはピレネーの南に逼塞(ひっそく)する三流国に転落した。

この「98年の不幸」をどう克服するべきか、スペインの文壇や画壇の綺羅(きら)星のような知識人である「98年の世代」が生まれた。所詮(しょせん)、彼らは思弁派であった。その年の年末、ダリーオがマドリードに到着した。アントニオ・マチャード、ヒメネス等が改めてダリーオの「モデルニスモ」に影響され、「第2の黄金世紀」を開花させたのだ。

法政大学名誉教授・川成 洋

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