12世紀に英国の植民地とされたアイルランド。第1次大戦期、英議会で成立した「アイルランド自治法」の実施が、大戦終了まで棚上げされてしまった。またもや英国に裏切られたといきり立ったアイルランド共和主義同盟(IRB)最高委員会で1916年4月24日の復活祭蜂起が決定された。それにしても、武器調達はいかに。
本書の主人公ロジャー・ケイスメント(1864~1916年)は少年時代にアフリカ探検に興味を持ち、20歳で探検家スタンリーが取り仕切る遠征隊に加わる。1902年に英外務省の領事に任命され、ベルギー領コンゴ、アマゾン川流域などに滞在し、先住民に対するヨーロッパ人の非人間的な残虐行為を赤裸々に暴いた報告書を発表し、人道主義者としての名声を高める。
名作『闇の奥』を発表した作家コンラッドも、ロジャーを尊敬し「イギリスのラス・カサス」と評したのだった。国王による聖マイケル・聖ジョージ勲章授与が発表されたが、足の痛みを理由に参上しなかった。その後ナイトの爵位を授与されるが、13年に外務省を退職する。
これ以降、IRBの積極的な活動家になったロジャーは軍資金集めのために渡米し、さらに彼はIRBの使者としてドイツに派遣される。ドイツは彼の要求をのめずに、交戦中ロシア軍から没収した古い小銃、約2万丁をアイルランドに送ることにした。
これでは勝ち目がないと判断したロジャーは,蜂起を断念させるために、護衛の潜水艦に乗ってアイルランドに戻ることにした。IRB指導部はドイツ船の到達を4月23日に変更した。だがドイツ船は、予定通りに21日にトラリー港に到着した。その翌日、船長は爆弾を仕掛けて船を沈没させた。
この日、トラリー港に上陸したロジャーも逮捕されてしまう。IRB指導部の中でロジャーだけがナイト授与者だったためか、反逆罪の裁判で死刑の判決を受け、1916年8月3日、処刑された。(野谷文昭訳)
法政大学名誉教授・川成 洋
岩波書店 定価3960円