トップ文化書評『千代國一の歌』御供平佶著 生活の実感を重視した写実詠【書評】

『千代國一の歌』御供平佶著 生活の実感を重視した写実詠【書評】

『千代國一の歌』 御供平佶著 ながらみ書房 定価3500円

千代國一(ちよくにいち)は、窪田空穂(くぼたうつぼ)の創刊した「国民文学」の編集発行人を務めた歌人で、晩年には宮中歌会始の選者に選ばれた。1916年新潟県五泉市に生まれ、大倉商高(現・東京経済大学)を卒業。大倉組(大倉財閥)に入社し、戦後、財閥解体後は、新発田市にあった大倉製糸工場の復元に尽力。経営者だった。2011年永眠。

歌への関心は応召した兄が帰省の際にくれた『子規歌集』を読んだことからだった。その後、歌人たちの作品に親しみ、最も感銘を受けたのが窪田空穂。その歌風は生活の実感を重視した写実詠で、「国民文学」に引き継がれた。

著者にとって千代國一は恩師に当たり、本書は「国民文学」誌上の「千代國一研究作品合評」に掲載された評論だった。自由な作品評が求められたが、著者は自分が師からどのように学んできたかを軸に論じていったという。

「一つ寝に眠る妻子の面にさす稲妻とほし音もなく」(『鳥の棲む樹』、昭和23年)の歌について著者は、「作者は今目の前にある現実を的確に写生することを作歌のすべてとしている」と述べ、「家庭を守る父と、夫を信頼する妻子の生の営みが清白な一瞬の光の中に浮かび上がった」と評した。

「事務机鋏ひろふとかがむ机より見えつつ怪し脚といふもの」(『陰のある道』、昭和27年)については、「『机より見えつつ怪し』と『脚といふもの』を、見たものの中から何を選び取って品よく詠うかという事なのかが、表現の命題の極致にあると考えてきた」という。

「沈む日の長くとどまる北極のこがねの空に神を見むかも」(『花光』、平成5年)。「この句は一、二句を受けると同時に、四、五句の立ち上がりの句なのである」と述べる。四句「こがね」で金色の色彩に絞り、結句に「神」を配した。北極で機上から沈もうとして沈まない日輪に神を見ていたのだ。作歌の要諦がちりばめられた解説集だ。

増子耕一

ながらみ書房 定価3500円

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