
フランス革命(1789~1799年)前半期の主役はロベスピエール(1794年没)、後半はナポレオン(1821年没)という風に歴史は動く。本書は前半期の主役について、政治論の面から迫った著作だ。
ロベスピエールの個性。清廉、勤勉、秀才、雄弁。逆に、気難しい、ねたみやすい、他人を信じない。
革命の発端は国家財政の破綻だ。農民は税金を負担するのに、貴族は無税。国王ルイ16世(1793年没)が貴族に納税を命令すればいいのだが、そうはならなかった。
国王は1789年、議会を招集した。国民の不満が充満する中での議会だったから、混乱が生じた。当初はロベスピエールも王制打倒を考えていなかった。
1791年、国王はパリを脱出、ベルギーへと向かう途中で逮捕された。ロベスピエールは処罰を支持。国王処刑の9カ月後、王妃マリー・アントワネットも処刑された。
群衆が1300人の囚人を殺害する事件が発生した。ロベスピエールはこれを黙殺した。「殺す、殺される」の疑心暗鬼が生まれた。「反革命」派と認定された「元革命派」1700人が、「ギロチンでは間に合わない」との理由で大砲で処刑された。このパターンは、70年後の幕末維新の中でも繰り返された。
「愚かな独裁者」との理由で、ロベスピエールも逮捕された。獄中で、自殺か他殺かは不明だが、銃弾で顎が砕けた。命は取り留めたが、処刑直前、包帯が外される時、彼は大きな叫び声を上げた。その後、革命派の一軍人だったナポレオンが台頭し、大衆は彼に熱狂した。
弁護士だったロベスピエールは、「調停者」として振る舞う場面が多かったと著者は指摘する。その彼も、歴史の激動の中で生き残ることはできなかった。
文芸評論家・菊田 均
新潮選書 1925円