トップ文化書評『女たちの平安後期』榎村寛之著 女性上位が安寧と文化を育む【書評】

『女たちの平安後期』榎村寛之著 女性上位が安寧と文化を育む【書評】

『女たちの平安後期』 榎村寛之著 中公新書 定価1144円

大河ドラマ「光る君へ」で面白かったのは、娘の頃はか細く「仰せのままに」としか言えなかった彰子が、女院(にょいん)としての地位を得ると次第に父藤原道長に反発するようになり、ついには自分の意志を通すまでに成長したこと。平安後期は古代から中世への過渡期で、縄文時代からの女性のシャーマン性を残す古代は、女性上位の時代だったように思える。その典型が一条天皇の皇后定子や中宮彰子のサロンで、それぞれ教養のある女性たちを集め、飛鳥・奈良時代からの学びの文化を花開かせた。『枕草子』や『源氏物語』もそこから生まれたのである。

女院とは、太皇太后・皇太后・皇后の三后や、それに準ずる准后、内親王など皇族トップの女性の称号で、平安時代中期から明治維新まで続いた。著者によると、女院のサロンは10世紀の伊勢斎宮・賀茂斎院を務めた女性たちに始まる。世俗が入りにくいアジール(聖域)に、知的な文芸サロンが形成されたのである。こうした女性たちの歴史は、政治・経済史とは関係なく、鳥羽天皇と美福門院の娘・八条院は、源平合戦の最中にもかかわらず、自由なサロンを花開かせていた。

これは藤原氏の摂関政治が女性たちが紡ぐ血縁関係によって成立していたからであり、道長にしても、権力を振るいながら、その元をつくった女性たちには頭が上がらなかったのであろう。それはドラマの夫婦関係を見ても推察でき、女性が力を持っていたから、300年の平安時代が実現したとも言えよう。武士が台頭した中世になると、物事を話し合いではなく暴力で解決するようになる。

評者は高齢者のケアを担当しているが、食事や遊び、体操などを用意するのも、サロンの参加者も圧倒的に女性たちで、そこでの交流が彼女らを元気にし、文化レベルを高めている。これは平安後期と同じで、鎌倉から現代までの男性上位の社会が、戦争ばかりして異常だったのではないかとさえ思える。

多田則明

中公新書 定価1144円

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