人と話していて、こちらが丁寧にかみ砕いて説明しているにもかかわらず、相手がどうも理解しているように思えない、そんな経験をすることがある。著者はそれは個人個人の「スキーマ」が違うからだという。

「スキーマ」とは認知心理学の言葉で、知識や思考の枠組みを表す。物事を理解する際に裏で働いている基本的な知識や思考の枠組みのことで、それがときにフィルターとして働くことで、コミュニケーションに支障をきたすという。
同じものを見たり聞いたりしても、誰もが同じような理解をするわけではない。私たちが知識や情報を受け取り、理解し、記憶する際、何かしらの偏りが必ず生じる。自分に合わない情報はそもそも頭に入ってこない。
また、感情の影響を受けずに判断できる人間は存在しない。選択や意思決定は多くの場合、人は最初に「好きか嫌いか」で物事を判断し、その後、「論理的な理由」を後付けしているにすぎないという。
どうしたら相互理解を深めることができるのだろう。コミュニケーションのスタートは、まず相手の話を聞くこと。大切なのは、「話を聞くぞ」と意識して、一生懸命に相手の話を聞くことだと著者は力説する。そして、言語は意図のすべてをそのまま表現できるわけではなく、常に受け取り手によって解釈され、解釈されて初めて意味あることとして伝わるという性質上、自分の意図を100%正確に伝えることなど不可能に近いことが分かる。
相手に理解してもらおうなどと過度な期待をしない。そんな気持ちで人と付き合っていくとイライラやストレスも減っていくだろう。
長野康彦
日経BP 定価1870円