トップ文化書評『やがてロシアの崩壊がはじまる』石井英俊著「プーチンの歴史観」に対抗【書評】

『やがてロシアの崩壊がはじまる』石井英俊著「プーチンの歴史観」に対抗【書評】

ドニエプル出版 定価2200円

足掛け3年にわたって続いているロシアのウクライナへの軍事侵攻は、プーチン大統領の「偉大なロシアの復活」という野望が一因にある。同氏はウクライナとロシアは歴史的に一体、つまりウクライナという国はそもそも存在せず、もともとすべてロシアだと言うのだ。

 “歴史家”を自称するプーチン氏のこうした歴史観に切り込むため、著者はロシア連邦下からの独立を望む諸民族の運動家たちにインタビューを決行し、本書にまとめた。これまで長年、中国共産党政権下のウイグル、チベット、モンゴル、香港人らの人権問題に取り組んできた著者による初のロシア本である。

現在のロシア連邦が41に分裂するという地図を掲げる「ロシア後の自由な民族フォーラム」の創設者でキーウ(キエフ)在住のウクライナ人、オレグ・マガレツキー氏は、ロシア連邦の解体は「これから起こるのではなく、すでに進行中である」と指摘する。同フォーラムにはチェチェンやカルムイク、ブリヤートといった民族の独立運動家らが名を連ね、日本を含む世界各地で開催された。こうした中で、SNSには”Make Russia Muscovy Again”(ロシアを再びモスクワ大公国に)という投稿が上がった。ロシアの弱小化を意味することだ。

実際に41に分裂するかどうかは別にして、今のウクライナ戦争が引き金となり、彼らの独立の機運が高まっていると著者はみる。ただ、ロシア崩壊が実現したとして、日本から見て注意せねばならないのが中国の動向だ。独立した諸民族に中国が手を伸ばそうとする可能性は高い。

マガレツキー氏に対して著者が「中国共産党と手を組めば、日本の友人には決してなれない」と釘(くぎ)を刺している通り、ロシアの弱体化が中国の独裁政治の強大化につながっては元も子もない。民主主義世界の脅威を増長させないためにも、ロシア分裂への動きは日本人も決して無関心ではいられない。

辻本奈緒子

ドニエプル出版 定価2200円

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