
カロリーベースで日本の食料自給率は38%だが、飼料自給率は26%でしかない。これがウクライナ戦争による肥料や飼料の高騰で、北海道の大規模酪農家を苦境に追い込んだ。従事者の減少を規模拡大でカバーしてきたことが裏目に出たのだ。農業人口全体が減少している日本にとって、深刻な問題である。
タイトルの「世界がかわる」とは、グローバル化した今、変わる世界の影響が大きいことで、その仕組みを「わかり」、自分なりの価値観に基づく酪農を目指すよう、著者は酪農家志望の若者たちに語り掛ける。例えば、循環型の放牧がいいとは限らないのである。
日本の酪農の歴史は浅く、明治以降、主にデンマークを参考に導入された。世界の酪農が目指しているのは、土壌再生型の酪農で、炭素を食べて植物に栄養や水を供給する根粒菌など土中の微生物を活性化し、化学肥料を減らす。牛のストレスの軽減には、例えば、牧草を好きに食べさせながら、暑いと牛舎に戻れるようにする。ロボット搾乳機を使うと、乳の溜(た)まった牛が自分で搾乳に向かうので、朝晩2回の搾乳より乳量が増えるが、限界はふん尿の処理で、それが飼育頭数を決めるという。自分で資格を取り、熱処理した生乳を高価格で売り、チーズやバターを製造する人もいる。自分なりの酪農をするには、何事も人のせいにせず、自分で引き受ける覚悟が必要だという。国の在り方として日本がそう問われている。
評者は30ヘクタールの農地で米麦を生産する集落営農で、持続可能な地域づくりを目指している。いわば健康長寿型農業で、働く高齢者は健康だし、健康だから働ける。
聖書の創世記にある「すべて生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう」の一節がキリスト教の人と動物との関係という見方もあるが、「動物も神の所有物で、どうしても食べたいときにのみ、自分の責任で食べよ」が最新の解釈だという。
多田則明
農文協 定価1760円