
今やマンガは日本の文化を代表する分野として認知されている。だが、かつてマンガは教育的に害を及ぼすものとして排斥された時期があった。マンガを読むと、学校の勉強がおろそかになるとみられていたのだ。
現在のマンガ・アニメの世界的な流行と文化として高く評価されている時代から考えると、まさに隔世の感がある。
本書は、高校生の時に漫画家デビューをした第一人者による自伝的な回顧録とマンガ文化についての見解などを記したものである。
マンガの低評価の時代から現在に至るまで第一線で活躍している著者ならではのさまざまな話題が取り上げられていて興味深い履歴書となっている。
著者はただマンガを愛好していただけではなく、マンガの文化的な価値を認め、それを守るために文字通り闘ってきた。実家では反対され、高校ではアルバイトとして認められないと、マンガを描くことを一時やめるか学校を中退するかを迫られたりする。
著者は学校は一時的だが、マンガを描くことは一生の問題なので、学校を中退するという決断をする。それほどマンガを描くことが、一生を懸けても悔いのない仕事だと思っていたからだった。
プロとなってからは、すべてをマンガに懸けて地元から上京し、アパートに下宿しながら精進する。少年漫画に比べて低く評価されてきた少女漫画の地位の向上、原稿料や原画などの歴史的な文化遺産として保全しようとする姿勢など、生き方に信念を持ち、それがマンガにおけるテーマにも反映し、ただの面白いマンガではなく、若い読者に考えさせる戦争や社会問題にも取り組んでいる。
プライベートな話では、熱烈に愛し合う両親、特に母親の話が面白い。何しろ生まれたての赤子の著者を置いて、夫に会いたいので病院を抜け出そうとしたなど、奇想天外なエピソードが紹介されている。
羽田幸男
中央公論新社 定価1760円