トップ文化書評『中国を見破る』楊海英著 中国人の本質に関わる宿痾【書評】

『中国を見破る』楊海英著 中国人の本質に関わる宿痾【書評】

【書評】『中国を見破る』 楊 海英著 中国人の本質に関わる宿痾

日本人の中国に関する理解は、長い間、漢籍によって形成されてきた。『大学』『中庸』『論語』をはじめとする四書五経はその基礎を作ったが、著者はこれについて疑問を投げ掛ける。それで中国の本質を知ることができるのかと。日本人が理解した中国は文献を基に日本流に解釈し直され、真実とは全く異なったものだと主張する。それが島国からみた見方だとすれば、著者の見方はまったく違った位置からだ。

著者は1964年南モンゴルのオルドス高原に生まれ、北京第二外国語学院で日本語を学び、現在は静岡大学教授。モンゴル名はオーノス・チョクト、日本名は大野旭。著者は遊牧民の出身で、彼らは馬に乗って自由に移動し、遠くまで見渡し、好奇心が強く、多くの情報に接する。そうした人生から生まれた中国観だ。

三つの視点から中国を論じている。第一は習近平政権があらゆる分野にわたり歴史の書き換えをしてきたことの検証。第二はチベット人、モンゴル人、ウイグル人など「他民族弾圧」の歴史と現在。第三は現代の「対外拡張」の恐るべき実態だ。驚嘆すべき目を覆うばかりの事実の数々が暴露されている。

この小さな一冊で中国とは何なのかがよく分かる恐るべき著書だ。その多くは著者が遊牧民流に学び取ってきたもの。それらが重厚な学問研究によって裏付けられている。

各章について詳細に伝えたいが、興味深い事実を一つ。北京第二外国語学院でアラビア語科を卒業し、中東の外交官として赴任した同窓生に著者が北京で再会した時のこと。分かったのは日本にいた著者よりも中東に関する情報を持たなかったということ。

なぜ? 大使館から出なかった上、相手国の文化や習慣を野卑と断じ、友好的な関心を抱かなかったためだという。この体質は歴史的に変わることがなかった。これを著者は中国人の本質に関わる「宿痾(しゅくあ)」と呼ぶ。

増子耕一

PHP研究所 定価1100円

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