
本書のタイトルを見て手が伸びたのは、評者自身がこの「電話恐怖症」を長年患っていたからである。患うというと病気みたいだが、実際にこの「電話恐怖症」も深刻なトラウマの一種であることは間違いない。
本書によれば、新入社員が「電話に出られないから、会社をやめます」という衝撃的な例が最初に紹介されている。
実際のある企業の人事担当者からの話だが、そのときは例外的な事例と思っていた。ところが、電話に出たがらない、電話が苦手で会社に行きたくない、電話の着信音が鳴ると動悸(どうき)が激しくなるという話を面談で聞いて、特殊な例ではないことを知るに至る。
著者は、産業カウンセラーで面談や相談を受けることを通じて、「電話恐怖症」が若い世代だけではないことを知り、その対処をどのようにしていくかを本書で詳しく解説している。
世界の中でも、コミュニケーション下手で知られる日本人特有の症状と思っていたら、著者によると、日本だけではなく、アメリカやイギリス、韓国などでも同じような電話に対する恐怖感を覚えている層が増えているという。
著者は、なぜそうした恐怖感や不安感を抱くようになったのか、一つはコミュニケーションツールのスマホなどによるメールなど、声を聞かなくても済むものが増えたことがあると指摘している。
一種の対面恐怖症が背景にあるとして、どのようにそれを克服したらいいか、さまざまな事例を通して対処法を教えてくれる。まさに至れり尽くせりのノウハウを披露しているが、著者自身はその上で、「電話恐怖症」をなくそうとするのではなく、肯定的に考える必要もあるという。なくそうとして、また別なトラウマになってしまう可能性もあるからだ。
昔のような「恐怖感」は薄れたが、今でも、電話の着信があると少し身構えてしまう評者には興味深い内容だった。
羽田幸男
朝日新書 定価924円