トップ文化書評【書評】『樹木の教科書』舘野 正樹著 植物の寿命から生き方を知る

【書評】『樹木の教科書』舘野 正樹著 植物の寿命から生き方を知る

樹木の種類は多く、日本だけでも1000種近くある。これらを個別に知るのは難しいが、その生き方を知れば理解を得やすくなる。著者は植物学者で日光植物園の園長でもある。

専門は生態学だが、大学院時代、植物の生き方について統一的な理解はできないか、と悩んだそうだ。考えれば考えるほど矛盾点ばかりが出てきたが、ようやく、「寿命の戦略」を指標にすれば、樹木の生き方を類型化できそうだと考えるようになったという。

多様な生き方に潜む単純な法則性を探そうとしていたのだ。その結果、著者は樹木の生き方を三つに類型化した。常緑高木、落葉高木、中低木とつるだ。

ところで歴史的に見れば、古生代に現れたのが針葉樹のモミ、スギ、マツなど裸子植物で、特徴は水を通す組織の仮導管が細いということ。寒冷地に適応し、高緯度地方や標高の高いところで生き残った。

次の中生代は恐竜が現れた時代で、被子(ひし)植物が進化した。ブナやカシなどの広葉樹で、導管が太く、常緑広葉樹は温暖な地方で成長した。

哺乳類が進化を遂げる新生代以降、氷河期と間氷期があり、古いタイプのものも新しいタイプのものも地上で繁栄した。

これらを三つに分類したのは、寿命という観点からで、常緑高木の場合、寿命は200年以上で、平原や緩やかな尾根を生育場所としている。長く生きるために幹や根が丈夫で、菌類や細菌類の攻撃に耐えるが、成長は遅い。

落葉高木は50年から200年が寿命で、幹や根の密度は常緑高木ほどではなく、そのために明るい環境で早く成長する。

中低木はもっと寿命が短い場合で、河川敷などで生きて、体が小さいうちから花を咲かせ実をつける。ヒノキ、ブナ、ウツギなど具体的に論じていて、みな個別に研究してきたものなので、著者とともに山野を散策し、大自然の中で講義を受けているような気持ちになってくる。

増子耕一

ちくま文庫 定価1034円

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