トップ文化書評【書評】『京都ものがたりの道 新装版』 彬子女王著 道を辿って歴史をひもとく

【書評】『京都ものがたりの道 新装版』 彬子女王著 道を辿って歴史をひもとく

平安京の時代から京都の街は「道」でできていて、著者は「京都の道を辿ること、それは歴史をひもとくのに似ている」という。

京都に暮らす著者がブラ散歩を楽しみながら発見した京都の道たちを紹介している。

百万遍から同志社を結ぶ今出川通には、読書に最適な京都最古の喫茶店・進々堂があり、教授を囲んで延々と議論することもあった。

パリでパン作りを学んだ創業者はカルチェラタンのカフェを再現しようと、同店を開いたという。そんな伝統からか、今出川通にはパン屋が軒を並べている。日本人ほど他国の文化に寛容な国民はいないのではと著者は感心する。そのうち食べ歩きしてみよう。

二条通りは江戸時代、幕府公認の薬種街で、薬の神様を祀(まつ)る薬祖神祠(じんし)がある。最初に祀られたのは中国の薬の神様・神農だが、やがて日本の大己貴命(おおなむちのみこと)に少彦名命(すくなひこなのみこと)、ついには西洋医学の父、ギリシャのヒポクラテスまで祀られるようになったのは宗教現象としても面白い。神道のこだわりのなさゆえだろう。

四条通と五条通の間にある松原通は、お盆に六道珍皇寺(ちんのうじ)で先祖の霊を迎える「六道まいり」で賑(にぎ)わう。当地はあの世とこの世の境界線で、人々は参道で霊の依(よ)り代(しろ)である高野槇(こうやまき)を買い、迎え鐘をついて霊を迎える。高野槇を使うのは朝廷に仕え閻魔(えんま)大王もしていた小野篁(たかむら)が、珍皇寺の井戸から高野槇の枝を伝って地獄へ降りて行ったからだという。

烏丸(からすま)・六角通りにある聖徳太子創建の六角堂は、池坊の高層ビルに隣接している。ここに百日間参籠していた親鸞に夢で太子が現れ、そのお告げで法然のもとに向かったことで知られる。

本尊は如意輪観音で、すべての衆生(しゅじょう)を救う観音仏を親鸞はあつく信仰していた。浄土信仰の中心に観音信仰があり、それは日本で生まれた草木国土(そうもくこくど)悉皆成仏(しっかいじょうぶつ)の思想に基づくというのが梅原猛の説である。

多田則明

毎日新聞出版 定価1430円

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