トップ文化書評【書評】『中国の地政学』マテュー・デュシャテル著 中国の視点で捉えた世界情勢

【書評】『中国の地政学』マテュー・デュシャテル著 中国の視点で捉えた世界情勢

経済大国に成長した中国の影響力はアジアだけでなく、世界全体に広がっている。中国の経済や政治的野心などが世界の国々に影響するようになった現在、中国がどのように世界を捉えているかを理解するのは重要である。

本書は中国が朝貢貿易でアジアの大国として君臨した歴史からひもとき、近年の陸・海で国境を接した隣国との地政学などまで取り上げている。

中国は外交政策の原則として、自国の立場を守るために他国からの内政干渉を防ぎ、発展途上国のなかで存在感を示すことを主眼としていた。

著者は、その原則が在外中国人や中国の経済的利益を守るために変化しつつあり、「将来的にはこの原則と決別する可能性もある」と興味深い指摘をしている。

著者はアフリカでの中国の人民解放軍が自国民の安全確保のために活動した事例を挙げ、他国での「軍事力の行使のシナリオはもはや排除されない」と説明している。

このことは中国政府が意図的に軍事力を動員する可能性があるということだ。自国民の安全確保の問題は通常は受け入れ国の内政の問題だ。そのことから、日本にも多くの中国人が居住しているため、中国政府が在日中国人の保護を名目に、日本に介入する危険性も考えられるという事だろう。

本書で印象的だったのは、日中の歴史がヨーロッパ人の目線で客観的に淡々と説明されていたこと。日中間の歴史認識は、当事者の場合、感情的な部分が文章に表れてしまい、どちらかの言い分に偏りがちだからである。本書のように第三国目線で東アジア史を読み解くのも面白い。

ただし、フランスで2022年に出版したものを翻訳したため、この数年間で変化した情勢などは反映されていない。

(松本達也訳)

宮沢玲衣

白水社文庫クセジュ 定価1540円

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »