
東京の渋谷駅周辺、新宿駅周辺などは再開発で高層ビルが幾つも建てられ、景観が大きく変化している。見上げる空はだんだんと狭くなり、ビルの立ち並び方も無秩序に見える。
一方、銀座では4丁目交差点付近を中心に、海外ブランド店のファッショナブルな建物がそのデザインを競うように並んでいる。それぞれが個性的であると同時に、一定の秩序も感じられ、ウインドーショッピングだけでなく、建築の鑑賞も“銀ぶら”の楽しみの一つになりつつある。
このような変貌する東京の街並みが気になり、芦原義信著『隠れた秩序 二十一世紀の都市に向って』(1986年、中央公論社)と、同著『東京の美学―混沌と秩序―』(1994年、岩波新書)の2冊を読んだ。
芦原義信は東京帝国大学を卒業し、米ハーバード大学に学び、銀座の旧ソニービルや池袋の東京芸術劇場などの日本の建築史に残るユニークな建物の設計者として知られる。日本の都市や建築の在り方について深く真剣に考え、その提言は、日本の都市づくりに大きな影響を与えた。
『東京の美学』では、整然とした美しいパリの街並みなどと比べて、日本の都市景観は「建築の外観や形態がまったくばらばらで統一がなく、またそれを調和ある統一に導こうとする行政の指導も、住民のお互いの協調も見られない」と指摘する。その上で、多くの人々が住み、経済発展を可能としたのは、一見、雑然としていても、そこに何らかの「隠れた秩序」があるからだと述べる。そしてその日本的な都市の姿に、21世紀のポストモダン都市の可能性を見るのである。
『隠れた秩序』では、世界各地の建築との比較から「形式」や「全体」から構想される西洋の建築や都市に対し、日本の建築や都市は「内容」と「個」から始まるという本質が語られる。『東京の美学』ではこの「隠れた秩序」が、靴を脱ぐ「上足」の生活様式のユニークさから説明される。
もちろん著者は、日本の都市や建築の現状を肯定しているわけではない。むしろ、そのような「隠れた秩序」を認めながらも、商業主義一辺倒の都市開発を厳しく批判している。土地所有者の権利が優先され、高い公共性を持つ計画が進められない背景に、日本人の土地に対する執念があることを指摘。私有権を制限する必要性にも言及している。
再開発の在り方考えるヒントに
この2冊が出版された時は、バブル経済崩壊以前の、日本経済に勢いがあった頃で、現在とは状況が異なる。しかし、日本の気候風土や文化に根差した「隠れた秩序」という本質的な特質は変わらない。著者が『東京の美学』で提言していることは今でも通じており、現在の再開発を考える上で多くのヒントとなり得る。
また都市の景観だけでなく、住宅問題、職住近接の在り方などにも先見的な見解を示している。都市空間の文化性や象徴性を重視するのは、世界の都市や建築を見て考えたことによる、当然の結論と思われる。
もし著者が存命であれば、東京の変貌ぶりや、今、議論の的となっている神宮外苑の再開発問題など、どう考えるのか、ぜひ聞きたいと思う人は少なくないだろう。
藤橋 進







