福島県郡山市のこおりやま文学の森資料館で、特別企画展「土門拳(けん)の風貌」が開かれている。昭和を代表する写真家、土門拳(1909~90年)が撮影した文化人の肖像を集めた展覧会で、明治・大正・昭和に生きた各界の著名人たちの迫力に満ちた肖像写真の数々を一望できる内容となっている。 (長野康彦)

土門はリアリズムの写真を追求し、『古寺巡礼』『ヒロシマ』などの連作で知られる。その土門が、敬愛する人や親しい人々を撮影してまとめたのが、1953年刊の写真集『風貌』だ。今回は同書収録の写真から一部を抜粋し、山形県酒田市の土門拳写真美術館から借りた資料と共に、48人分の写真と書籍4点、計52点を展示している。
被写体は川端康成、志賀直哉、谷崎潤一郎、島崎藤村、柳田國男をはじめ文学者が中心で、政治家、学者、画家、俳優、バレリーナも含まれる。三島由紀夫や石原慎太郎らの姿もある。
各写真には、土門が撮影時のエピソードや被写体との思い出をまとめた「撮影記」が添えられている。当館主査の大和田結花さんは、「写真を見て撮影記を読み、もう一度写真を見ると、さまざまな発想が生まれるのではないか」と話す。
会場で目を引くのが、土門の自宅の襖(ふすま)を写した一枚だ。土門は撮りたい人物の名前を襖に墨で書き込み、撮影が完了すると墨で消していった。書ききれなくなると襖を張り替え、また新たな名前を書き連ねたという。写真の中央には宮本百合子、土井晩翠(ばんすい)らの名前が読み取れ、左上には消した跡とみられる線が残る。撮影できるかどうかはさておき、まず「撮りたい」と書き留める。その執念がうかがえる。
執念は、時に被写体との衝突も生んだ。画家の梅原龍三郎を撮影した際、数枚撮ったところで梅原が「もういいだろう」という様子になっても、土門は撮影を続けた。見上げるような姿勢も求められ、苦しい体勢が続いた梅原はついに怒りを爆発させ、座っていた籐(とう)椅子を両手で持ち上げ、アトリエに叩(たた)きつけ、土門を追い返したという。有名な逸話で、大和田さんはこうしたエピソードも含めて見どころだと語る。
土門は「肖像写真とは、カメラを通して描く、写される人自身の、いわば自画像である」と語り、その人物の過去と現在を物語る自叙伝のような写真を理想とした。名文家としても知られ、撮影記はエッセーとしての面白さも備える。大和田さんは、写真への情熱が伝わってくるので、写真と文章を合わせて味わい、それぞれ新しい発見をしてほしいと期待を寄せている。撮られる側の気迫と、撮る側の執念がぶつかり合う肖像の数々は、見ていて飽きない。
会期は10月12日(月・祝)まで。開館は午前10時から午後5時(最終入館は午後4時30分)。月曜休館(祝日の場合は翌日休館)。入館料は一般200円、高校・大学生100円で、中学生以下、65歳以上、身体障害者手帳所持者は無料。
同じ敷地の久米正雄記念館では、「久米家のアルバム」展も同時開催している。







