
淡い水彩画。どこか懐かしい風景。『ふしぎなえ』や『旅の絵本』シリーズで知られる画家安野光雅(あんのみつまさ)氏(1926~2020年)の生誕100年を記念した企画展「安野光雅展 ふしぎな旅に出かけよう!」が栃木県の栃木市立美術館で開かれている。
絵の前に立った子供たちが、身を乗り出すようにして画面をのぞき込む。
「どこにある?」
「あった!」
見つけたのは、ニューヨークの高層ビル群に潜むキングコングだ。
夏休みの日曜日、小中学生を対象として行われた「絵を見て話そ!学芸員と一緒にトーク」と題するイベントでは、本展担当学芸員の杉村浩哉(ひろや)館長が子どもたちに問い掛けながら作品を見て回った。
「安野は絵について説明されるのを嫌った。見る人がそれぞれの解釈をしてくれればいい」(杉村館長)
安野の魅力は美しい風景だけではない。画面の細部に、見る人が自ら発見するための仕掛けが潜んでいる。
作品「ニューヨーク、キングコング」はその典型だ。一見すると摩天楼が並ぶニューヨークの風景だが、よく見るとキングコングが隠されている。館長はすぐに答えを教えず、子供たちに絵へ近づいて探してもらう。
「自分で発見すると、それはずっと自分が発見したものとして残ってくる」
杉村館長によれば、安野はそうした「発見する喜び」を大切にしていたという。展示された『旅の絵本IV(アメリカ編)』にも、そんな遊び心が満ちている。
「ニューオーリンズ」では、ミシシッピ川を背景に、ドラムやトランペット、コントラバス、バンジョーなどを演奏する人々が描かれる。何の音楽かと問い掛けると、子供たちは楽器を手掛かりに「ジャズ」にたどり着く。細部まで緻密に描かれ、見ていて飽きない。
78点の展示作品からは安野の美の世界や遊び心を感じることができる。切り絵による『きりがみ桃太郎』では、よく知られた物語を独自のユーモアを交えて描き直している。また、『空想の繪本』では視覚的トリックを使い、見る角度を変えると見えていたものが別の姿に変わったり、階段を上っても同じ場所に戻ってしまうような、だまし絵の世界が楽しめる。
安野は著書『絵のある人生』(岩波新書)で、絵を描きに行くことを「恋人を探しにいくようなもの」と表現する。「自分だけが発見し、『惚(ほ)れた』状況になってしまって、なぜそこを描いているのか、説明がつかないくらいでいい」と記している。
自分だけのものを見つけて描く。そこに理屈は存在しない。判断は見る者の手に委ねる。鑑賞者に必要なのは、目を凝らして自分だけの「何か」を見つけることだ。
生誕100年。安野の「ふしぎな旅」は、今もそれぞれの絵の中で続いている。見る人が何かを発見するたび、その人の新しい旅が始まるのかもしれない。
会期は9月23日まで。
(長野康彦)







