トップ文化ターシャ・テューダー 人生の軌跡展―郡山市立美術館

ターシャ・テューダー 人生の軌跡展―郡山市立美術館

 緑豊かな景色の中で色とりどりの花が咲き誇る庭。素朴な木造のコテージ。アンティークのドレスをまとい、庭の手入れをする女性。米国バーモント州の大自然の中で暮らし、絵本作家として親しまれたターシャ・テューダー(1915~2008年)の人生を紹介する「ターシャ・テューダー 人生の軌跡展」が福島県の郡山市立美術館で開かれている(会期8月23日まで)。

ターシャ・テューダーがガーデニングする様子の写真=郡山市立美術館
ターシャ・テューダーがガーデニングする様子の写真=郡山市立美術館

暮らしそのものを芸術に

 今月行われたギャラリートークで同美術館の永山多貴子館長は「スローライフという、丁寧な暮らしに注目が集まっている中で、ターシャの生き方を紹介できたらと思った」とし、「ターシャの絵本の原画を含め、庭づくり、暮らしに焦点を当てた」と今展覧会の狙いを語った。

 会場には絵本原画や下絵をはじめ、ターシャが日々の暮らしの中で愛用していたガーデニングや生活道具の数々、アンティークドレスや写真など約250点を展示。彼女の創作活動や豊かな暮らしの魅力に迫る内容となっている。

 ターシャは約30万坪(東京ドーム約20個分)という広大な土地に庭園を築いた。重機に頼らず、自ら道具を持って土を耕し植物を植えた。「30万坪の手入れをするのに使っていた道具が、19世紀に使われていたものだったというのが驚き」(永山館長)。ターシャはアンティークを好み、ライフスタイルも含めて100年前の姿で自給自足の生活に徹底的にこだわった。なぜか。シンプルにそれが好きだったからだ。

 展示されている天秤(てんびん)棒や大きな木桶(きおけ)、真鍮(しんちゅう)製の鍋などを前にすると、その暮らしぶりがかなりの重労働だったことが分かる。永山館長はターシャが「本当に力持ちだったんでしょうね」と何度も口にした。

ターシャの絵本を手に解説する永山多貴子館長=郡山市立美術館

 庭造りも独特だった。イングリッシュガーデンの伝統を踏まえながらも、自分が心から好きな植物、その土地で元気に育つ植物を大切にした。背丈や花色の組み合わせは絵画のように美しく、それでいて自然な風景に見える。絵本画家ならではの色彩感覚が、庭にも生かされていたのだろう。

 ターシャの暮らしぶりを見ていると、『ウォールデン・森の生活』を書いたヘンリー・デイヴィッド・ソローとの共通点に気付く。ソローは19世紀、マサチューセッツ州コンコードを拠点に活動した作家で、郊外のウォールデン池畔で自ら丸太小屋を建て、約2年2カ月にわたって自給自足的な生活を送った。その時の自然観察と自己省察を著したのが同書である。

現代の利便性に抗う

 ソローは「丁寧に暮らしたい、人生の本質的な事実だけと向き合いたい、そしてその事実から何か学べるのかを確かめたい」(『ウォールデン・森の生活』)という思いから森に入った。ターシャもまた、便利さよりも、自ら選んだ古風な暮らしを生涯貫いた。花を育て、服を縫い、絵を描き、生活のほとんどを手作業で行う。彼女は21世紀まで生きた現代人でありながら、電気や水道など近代的な設備は最小限にとどめ、あえて19世紀アメリカ開拓時代のような生活を送った。

 ソローは後世に思想的影響を残したが、ターシャはその生活すべてが作品であり、暮らしそのものを芸術にした人と言えるだろう。 

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