
秋田県南部、湯沢市の小野育朗(いくろう)さん(76)は「湯沢凧(ゆざわだこ)」に魅せられ、自宅に展示館「湯沢凧春風(はるかぜ)館」までつくった。「全国の凧を巡った専門家から、湯沢凧は日本一と評価された」と誇る小野さん。夢は凧博物館の建設で、若い人への普及を目指す。
同市千石(せんごく)町の自宅車庫の2階に展示兼凧作り体験会場がある。壁から天井まで、自身の制作品から歴代の名品まで約200点を公開。希望者には凧作り体験も行っている。
小野さんは湯沢凧同好会の会員と共に、毎年3月第3日曜日に市内で凧揚げ大会を実施。今年は幼稚園児を含め約100人が参加した。市内の中高校で凧作り教室を開くが、大会参加者の減少が心配だ。
湯沢凧の大きな特徴は単純な骨組み。縦骨(たてぼね)が中央に1本、横骨3本が基本で、大きくなっても添え骨として横骨が増えるだけ。シッポは付けない。釣り糸も簡単で、縦骨と横骨の交点のみ。弦に付けた紙が美しい音色を鳴らす。1本の揚げ糸の操作で左右回転、大回転、急降下など自由自在に動かせるが、同時に作るのが日本一難しい。
小野さんは8歳の時、湯沢公民館主催の第2回凧揚げ大会の子供の部で2位となった。凧は近所の名人からもらったものだった。
中学生からは自分で作り、ほぼ60年間、歴代名人の凧を見本として和紙に凧の絵を描き、竹で骨組みを作り糸を付け、凧を揚げ続けてきた。家屋の取り壊し時には譲ってもらうなど、凧の収集も続けている。
秋田藩の北家・角館と共に、湯沢は南家(みなみけ)としてかつては城があった。下級武士の内職として始まった凧作り。足軽であっても文字を書くため、凧の絵も勢いがある。
凧揚げの歴史は約300年。
湯沢凧は「武者絵」と「歌舞伎絵」も多いが「代表は、まなぐ凧」と小野さん。
「まなぐ」とは秋田弁で「目」の意味。図柄は写真のように墨一色で左右対称に描く「鬼女(きじょ)」で、目を見開き、牙を持つ大きな口からは歯と舌まで見える恐ろしい形相。ツツガムシ退治を祈願する顔絵といわれる。70年近く湯沢凧の魅力に惹(ひ)かれ、仲間と普及活動を行ってきた小野さん。来春の第70回記念大会までは会長を務めるが、新潟市や愛媛県五十崎(いかざき)、滋賀県東近江(おうみ)にあるような凧博物館の建設が夢だ。
凧作り体験の問い合わせは電話&FAX 0183(73)9428。
(伊藤志郎)






