トップ文化内村鑑三を読む146 『ロマ書の研究』⑧ パウロの慕うべき魂の清さ【内村鑑三を読む】

内村鑑三を読む146 『ロマ書の研究』⑧ パウロの慕うべき魂の清さ【内村鑑三を読む】

パウロが幽閉されたカイザリアの街の戦車競技場跡
パウロが幽閉されたカイザリアの街の戦車競技場跡

 ロマ書の第1章第1節から7節までは、パウロの自己紹介だった。この自己紹介でパウロの神学と人生観が語られた。続く第8節から15節までを、内村は第6講で「ローマ訪問の計画」と題して語る。パウロは記した。

 「まず第一に、わたしはあなたがたの信仰が全世界に言い伝えられていることを、イエス・キリストによって、あなたがた一同のために、わたしの神に感謝する。/わたしは祈りのたびごとに、絶えずあなたがたを覚え、いつかはみ旨にかなって道が開かれ、どうにかして、あなたがたのところに行けるようにと願っている」

 この文章を読んだ内村は次のように感想を語った。

 「この所を読みて、彼の性情に触れ彼の心の動きを見得るとき、一種微妙なる心の糸が、彼とわれらをつなぐことを実感する。のみならず、これによって偉大なるクリスチャンの人格を知り得ることは、われらにとり種々の意味において幸福と利益である」

 パウロの生涯と内村の生涯が深く共鳴しており、共に同じ道を歩んできたが故である。

 内村がここで感動したのは「まず第一に神に感謝する」という言葉だった。己の事業が成功したからでもなく、名誉が上がったからでもない。人々の信仰について、喜びを己の喜びとせず、神に対する感謝として表現していたことだ。

 内村はここにパウロの麗しき心、慕うべき魂の清さを読み取っていた。

 何に感謝したのかといえば、「あなたがたの信仰が全世界に言い伝えられていること」だ。当時、世界の中心はローマ。ローマ信徒の信仰が世界に言い伝えられ、称揚され、世界の信徒を奨励する道となり、不信者にまで関心を向けさせることになった。

 「彼はかくして福音が次第に全世界に浸透すべきを思うて、おどり立つ胸の喜びを感じたに相違あるまい」とパウロの心境を想像した。

 さりげないあいさつ文なのだが、内村は特別の注意を払って読んでゆく。ロマ書はこう続く。

 「わたしは、あなたがたに会うことを熱望している。あなたがたに霊の賜物を幾分でも分け与えて、力づけたいからである。それは、あなたがたの中にいて、あなたがたとわたしとのお互いの信仰によって、共に励まし合うためにほかならない」

 内村はこのパウロの文章を山中の湖から流れる川に例えた。

 「この川はまた少なからぬ趣と味わいとがあって、かの湖に見出せしところとは異なる別個の貴さがあるのである。その水の流れ、その岩のたたずまい、その両岸の姿、その浅い流れ、その碧潭(へきたん)…そのすべてのものに、他にはないところの風情があるのである」

(増子耕一、写真も)

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