トップ文化国際宗教都市・神戸 寛容な風土に諸宗教が共生 イスラムとユダヤが住む街に

国際宗教都市・神戸 寛容な風土に諸宗教が共生 イスラムとユダヤが住む街に

兵庫県中央労働センター玄関前の小泉八雲旧居跡の碑の前で著書『国際宗教都市 神戸の物語』を持つ加藤隆久名誉宮司
兵庫県中央労働センター玄関前の小泉八雲旧居跡の碑の前で著書『国際宗教都市 神戸の物語』を持つ加藤隆久名誉宮司

 この3月、神戸市中央区にある生田神社の加藤隆久名誉宮司が『国際宗教都市 神戸の物語』(アートヴィレッジ)を上梓(じょうし)した。

 幕末の開港後、日本屈指の良港だった神戸には多くの外国人が居住し、世界の宗教施設がある北野異人館街に代表される国際宗教都市の様相を呈するようになる。同書はその歴史を紹介しながら、それぞれの宗教を担って活躍する神戸人たちの生き方を描いている。

 冒頭を飾るのは「神戸七福神」巡り。西国(近畿)を代表する60社90寺を巡る「神仏霊場会」を立ち上げた著者は、神職ながら学生時代から大の寺好き。薬師寺の高田好胤(こういん)管長とも親交を結んでいた。

 アニミズム的な神道の風土に仏教が受容され、天皇家が皇室祭祀(さいし)を守りながら、国の教えとして仏教を導入したことで、神仏習合は日本人の信仰の基盤となった。支配層の信仰が、天皇から八幡大(はちまんだい)菩薩の称号を賜った八幡神なのに対し、庶民版とも言えるのが七福神信仰。インドと中国、日本の神・人から成り、室町時代から盛んになる。神戸七福神は比較的新しく、昭和62(1987)年、神戸開港120年を記念して開創された。

 人気だった朝ドラ「ばけばけ」のモデル・小泉八雲(やくも)(ラフカディオ・ハーン)は、熊本の五校(第五高等学校)教師を辞めた後、神戸市のジャパンクロニクル社の記者になり2年間神戸に住んだが、残念ながらドラマでは、はしょられた。

 旧居跡の碑が兵庫県中央労働センター玄関先にある。

 ハーンのような作品を残したいと神戸から徳島に移住したのが、ポルトガルの海軍将校から初代神戸副領事になったモラエスで、妻おヨネと共に徳島の寺の墓に眠っている。モラエスは徳島でならハーンのような作品が書けると考え移住し、おヨネの菩提を弔いながら『徳島の盆踊り』などの名作を残した。

 ハーンもモラエスも古き良き日本を愛し、それが近代化によって失われていくのを嘆きながら、日本の土となった。日本を「死者と共に暮らす国」と感じた2人の霊性を、今の日本人は持っているだろうか。

神戸シナゴーグ=兵庫県神戸市中央区
神戸シナゴーグ=兵庫県神戸市中央区

 日本最古のユダヤ教会・神戸シナゴーグには、杉原千畝(ちうね)の「命のビザ」で救われ、ウラジオストク経由で神戸に逃れてきたユダヤ難民の、その後の歴史が刻まれている。神戸から先の出国にも多くの勇気ある日本人が関わっていた。

 イスラエルの「嘆きの壁」を彩るエルサレムストーンに引かれた神戸の建築家は、アラブ産油国の圧力に屈せず、イスラエルから石の直輸入に成功。その縁で同国初代名誉領事に就任した話は、現代ユダヤ史の一ページである。

 同じく日本最古のイスラム教寺院・神戸モスクには初の日本人イマーム(指導者)が誕生している。モスクに近い三宮の生田神社界隈(かいわい)には、スカーフ姿のムスリム女性が多く、ハラール食を提供するレストランも増え、神戸はますます国際宗教都市の色彩を強めている。

神戸モスク=兵庫県神戸市中央区
神戸モスク=兵庫県神戸市中央区

 神戸と大阪の中間にあり、瀬戸内海を望む丘陵地に開かれた芦屋の芦屋神社には、『古事記』と異なる天孫降臨神話が伝わっている。日本は古代から多様な国柄なのである。

 現代を反映するのは、戦火のレバノンから日本に渡ってきた2人の女性の物語。石黒マリーローズさんは大学教授になり、妹の梅若マドレーヌさんは能楽師の妻になった。それはカトリックと日本的宗教との出合いでもある。

 読み応えがあるのは巻末の著者と三宅善信神道国際学会理事長・金光(こんこう)教春日丘教会長との対談。世界宗教者平和会議(WCRP)に代表される日本の宗教間対話が、三宅善信師の祖父・歳雄師の人格と功績、世界的人脈によって形成された歴史が興味深い。宗教間対話も、要するに「人による」のである。

(文と写真・多田則明)

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