
人間の魂は生き続ける
東京都渋谷区の小田急線代々木八幡駅の近くに大日(だいにち)寺(じ)がある。住宅街の中にお堂があり、2階のベランダに弘法大師像が見える。ドアを開けるとそこが仏間だ。
高野山真言宗の大僧正で伝燈大(でんどうだい)阿闍梨(あじゃり)であった前住職の大栗道榮(おおぐりどうえい)さんは遷化して、副住職だった大栗妙喜(みょうき)さんが住職を務めている。
「心の修行塾」では経営者や若者や主婦を対象に密教講座を開き、僧侶になるためのコースもある。重視しているのが「躾(しつけ)」で、今回『躾(しつけ)読本』を刊行。経典を基に平易な言葉で教えを述べたもの。カラー版の月刊新聞「おといれだより」にも「真・日本人の躾」と題する記事がある。

妙喜さんは言う。「日本人は身を美しくするのが大好き。それを躾と言い、日常生活を仏典と関連させて語っています」。それにしても「おといれだより」とは。
「大栗は困ったことがあると本を持ってトイレに入るのです。1時間も、2時間も。トイレは一人きりになれる所で、そこで勉強してほしいと、この題名を付けたのです」
道榮さんには『こばなし法話集』(国書刊行会)をはじめ100冊以上の著書があった。子弟の問答形式で綴(つづ)られ、落語のような楽しさがあったが、分かりやすい言葉で語ることに腐心していた。
『躾(しつけ)読本』の冒頭にこうある。
「空のように広い心と/海のような深い心と/ダイヤのような固い決意で/宇宙を照らす光のように/すべての人の利益のために/修行する」
イラストがある。海辺の景色で、遠くに陸が見え、朝日が昇ってくる。道榮さんの絵だ。「一、朝に思う。今日一日…」のページには十一面観音菩薩があり、特に人物画に卓越した画才を見せた。
道榮さんの文学の師匠は、作家の故・森敦(もりあつし)。「ご本尊さまへの手紙として思いのままに書きなさい」と助言を得て、2人は生涯交流を続けた。
妙喜さんは道榮さんの思想を伝えようと活動を続けている。それを一言で言うとこうだ。
「地球は終わっても人間の魂は生き続ける。そのための人間の魂作り」
道榮さんは亡くなる前「おといれだより」に座右の銘を掲載した。「生き抜けよ!」と。
「生き抜くというのは、今生だけでなく、死んで生まれ変わった時、どんな生き方をするのか準備しておけよ」という意味だ。
妙喜さんは生きるという文字を示した。横線が三つある。これは下が過去世で、中が現在、上が未来で、縦の線が貫いている。
「三世が続いていてレッツゴー」
折り畳み式の『躾(しつけ)読本』の裏側には「生涯計画表」があり、「一年」「一才」とあり月ごとの空欄がある。
「一生涯の計画表です。こうなりたいと具体的に書き込んでいくのです。密教を学んでいくと自分の天命というのが分かってきます。自分の役割が何か、どう生きたらいいのか。誰でもその声を聞くのですが、多くの人は聞いていない」
大日寺は1977(昭和52)年の建立で、2人で建てた。妙喜さんは夫で師匠の道榮さんから密教を学んで82年に得度。株式会社大日刊行会を経営していて、和尚の著書や僧侶向け教本などを製作販売している。『躾(しつけ)読本』もここから出され、解説書も準備中だ。
大日刊行会=〒151―0053 東京都渋谷区代々木5の5の4 電話03(3465)5351。
(増子耕一)






