トップ文化時を超えて残る芸術作品の普遍性 17代、500年受け継がれた素描【フランス美術事情】

時を超えて残る芸術作品の普遍性 17代、500年受け継がれた素描【フランス美術事情】

ハンス・バルドゥング・グリーン作『フリードリヒ・プレヒターの妻、スザンナ・プフェフィンガーの肖像』 1517年作 ⒸBEAUSSANT LEFÈVRE & Associés
ハンス・バルドゥング・グリーン作『フリードリヒ・プレヒターの妻、スザンナ・プフェフィンガーの肖像』 1517年作 ⒸBEAUSSANT LEFÈVRE & Associés

 ドイツのルネサンス期の画家、アルブレヒト・デューラーの弟子、ハンス・バルドゥング・グリーン(1484/1485~1545年)の素描の未発表作品(1517年作)が、ある家族の遺産整理で発見された。3月にはオークションに出品されるが、推定300万ユーロ(約5億5000万円)の価値があるとみられている。

 まず、17代、500年以上、一つの家族に所有されていたこと自体が奇跡だが、宗教改革期の時を超えて仏東部ストラスブールで活躍した巨匠の素描は稀有(けう)だ。独自の幻想世界、卓越した表現力で北方ルネサンスに足跡を残したバルドゥング素描作品は西洋絵画の源流を物語る。

 肖像画、祭壇画、特に《騎士と若い女と死》や魔女を描いたバルドゥングは、無表情な人物画にやがて血が通い、世俗化する一方で、心に迫る生きた人間を描く画家となった。銀筆で描かれる線は、修正が許されず、不可逆に一気に描かれたもので、古い日本画にも通じる。

 今回発見された素描画に描かれた女性、スザンナ・プフェフィンガーは商人兼銀行家のフリードリヒ・プレヒターの妻だが、敬虔(けいけん)なキリスト教徒だったことが記録されている。バルドゥングは、20世紀を席巻したシュールレアリスムの画家たちにも影響を与えた。

 古い歴史を持ち、普遍性を持つキリスト教を信じてきたヨーロッパでは、100年、200年は大昔という感覚はない。500年前のダヴィンチの「モナリザ」は古い昔の芸術作品ではなく、21世紀を生きるわれわれが鑑賞している。

 その時間的感性からすれば、今回発見されたバルドゥングの素描も、今に通じる作品として評価されている。芸術はそもそも時を超えるものだが、多くの日本人は、自分が数百年前に生きた人間と同じ感性を持つとは考えていないようにも思える。だが、人間の寿命より、建物の寿命の方が長いヨーロッパでは、時間が驚くほどゆっくり流れている。

 20世紀および21世紀の紙に描かれた作品の世界最大級のコレクションを所蔵するポンピドゥー・センターは、パリのグランパレ国立美術館で「限界のないデッサン ポンピドゥー・センター・コレクションの傑作展」(3月15日まで)を開催中だ。3万5000点にも及ぶ素描コレクションは、過去に一度も大規模な展覧会を企画していなかった。

 今回はその中の400点の版画・素描部門のコレクションが展示されている。絵画の設計図ともいえる素描は、作家の頭の中を垣間見るようなものだ。500年前と今の何が違うかといえば、まず、技法的な進化は見られない。科学が台頭した20世紀と写真も動画も科学さえも存在しなかったルネサンス期の画家との素描の比較も興味深い。

(安部雅延)

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