
日本一深い湖として秋田県仙北市の田沢湖は多くの観光客で賑(にぎ)わうが、その一方でかつて玉川の強酸性水を導入したことで固有種のクニマスが絶滅した。しかし卵は幾つかの湖でふ化放流されていて、平成22年に山梨県富士河口湖町(かわぐちこまち)の西湖(さいこ)で子孫が見つかり関係者は大喜び、田沢湖に里帰りさせる準備が進む。
たつこ像に近い「田沢湖クニマス未来館」では、クニマスはどんな魚なのか、なぜ絶滅したのか、発見の経緯や田沢湖が凍らない理由を紹介している。湖畔に寄り添うように29年に同市が建設し開館した。屋外に出ると田沢湖が一望できる。展示室では西湖から来た満2歳のクニマス数匹が元気に泳いでいた。
クニマスは世界で田沢湖(最大深度423・4㍍)にのみ生息した固有種で、ヒメマスと同じくベニザケの仲間の(陸に閉じ込められた)陸封型。古い時代に誕生し氷河時代を生き抜いたとされ、深い湖底で産卵するため獲(と)るのが難しく高級魚とされる。淡白な味の白身魚で祝い事や病気のお見舞い、贈り物として喜ばれた。
ところが戦時中の食糧増産と電力確保のため、玉川温泉由来の強酸性水が田沢湖に導入され、昭和15年にはウグイ、イワナ、ウナギ、コイなどと共にクニマスも死滅した。
昭和の初め頃クニマスの卵は山梨県、長野県、富山県、神奈川県の湖に分譲されたため、どこかに生きていないかと捜索したが見つからない。やがて京都大学魚類標本の管理者・中坊(なかぼう)徹次(てつじ)氏が関心を持ち、西湖で獲れた黒いマス9匹を入手、分析から平成22年にクニマスと判明したのだった。
西湖で子孫が見つかり田沢湖での里帰り準備が進む。県では平成25年から仙北市の試験池でクニマスの飼育研究を始めた。漁に使われた丸木舟2隻の再現や砂浜のクリーンアップ作戦も実施。そして最も大切なのが強酸性水を石灰で中和する作業で平成3年から中和処理施設が本格的に稼働するが、まだ湖底までPH5・2のため魚の餌となるプランクトンが生息できない。今、泳いでいるのは酸性に強いウグイだけだ。
館内の展示では、秋田県立大曲(おおまがり)農業高校の生物工学部がクラブ活動として電気分解で酸性水1リットルを3分で中性化する方法を編み出し、今も実験が続いている。
田沢湖漁協では夏瀬(なつせ)ダムの上流の川にイワナやヤマメの稚魚を放流し、釣り場の保全にも努めている。
(伊藤志郎、写真も)






