トップ文化背景の山との一体感を演出 「庭園日本一」島根県・足立美術館を訪ねる

背景の山との一体感を演出 「庭園日本一」島根県・足立美術館を訪ねる

足立美術館の枯山水庭
足立美術館の枯山水庭

語り掛けてくる石や樹木

 米国の日本庭園専門誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』で2003年以来、連続日本一に選ばれている島根県安来(やすぎ)市の足立美術館を訪ねた。約120点の横山大観作品を含む日本美術の優品を展示する美術館だが、国内外から訪れる年間約50万人の来館者は、約5万坪の庭園を目当てにやって来る。

 車が美術館近くに来ると、周りは低い山々に囲まれたのどかな田園風景となる。ひと昔前は田圃が広がっていたと思われるような所だ。

 入館して、漆芸品などが展示された建物の中を進むと、広いホールに出た。全面見開きとなったガラス窓の向こうに、主庭の枯山水庭が広がっている。写真やテレビでよく観(み)た眺めで驚きはないが、白い砂利と木々の緑が調和し、絵のように美しい。後ろの山を借景としているが、借景というより庭園とほとんど一体となっており、スケールの大きな眺めとなっている。

 ホールに置かれた説明書きによると、後ろの山は「勝山」といい、永禄年間(16世紀半ば)、毛利元就が尼子義久との合戦で陣を構えた山と言う。その山との一体感を演出するために、庭の手前の松の葉を薄く剪定し、山に近い松は緑が濃く見えるように剪定(せんてい)している。それで庭と山との連続性を持たせているのだ。勝山との一体感を出すための心憎い演出であり、この庭の大きさの秘密がある。

 樹木の一つ一つがよく手入れされ、所々に配された石と共に、「ようこそいらっしゃいました。私たちをよく眺めてください」と語り掛けているようだ。この絵画のような庭園を維持するための庭師たちの手入れが、半端なものではないと聞いている。そういう人間と自然の共同作業が生んだ美しさの極致に、限りなく近づいた庭園という感じがする。

 枯山水庭に面した喫茶室を横目にさらに行くと、やや暗い一角に出て、横長の広い窓には手前に太い木の幹を前景にして庭が広がっている。窓枠がそのまま額縁になった「生の額絵」だ。足立美術館を創設した実業家の足立全康(ぜんこう)翁の「庭園もまた一幅の絵画である」という考えを端的に示すコーナーだ。

 さらに仏間に行くと、仏壇の横の壁が四角くくり抜かれ、外の庭の景色が掛け軸のように見える。足立翁が庭を見るために、壁をくり抜き「生の掛軸」としたのだ。これが庭を一幅の絵画と見る足立翁の庭造りの出発となったという。

 日本の庭園は、水戸の偕楽園、岡山の後楽園、金沢の兼六園の「三名園」がいずれも回遊式の大名庭園で、散策しながら眺める庭園だ。しかし一方で、龍安寺(りょうあんじ)の石庭に代表される京都の禅寺の枯山水などは、寺院の中からの眺めを前提に造られている。足立翁の発想はその流れを追求したものとも言えるだろう。

 2階の美術品の大展示室には、安田靫彦(ゆきひこ)、上村松園(うえむらしょうえん)ほか日本画の優品が展示されている。その奥が横山大観特別展示室で、正面の『紅葉』を中心に、『白砂青松』、『那智乃瀧』などの名品が展示されている。足立翁は『白砂青松』を元に白砂青松庭を作り、『那智乃瀧』にヒントを得て、『鶴亀の滝』を造らせた。コレクションと庭は密接に繋(つな)がっているのだ。

 これから紅葉の季節を迎えると、松の緑に紅葉の赤がアクセントとなり、背景の勝山も色づいて、この美術館は一年で最も華やかな季節を迎える。

(特別編集委員・藤橋 進、写真も)

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