
文学のジャンルの中でエッセーが高い地位を占めている国がイギリスだ。これには長い伝統があり、開祖は「知識は力なり」と言ったルネサンス期の哲学者フランシス・ベーコン。当初は堅苦しいものだったが18世紀、ジャーナリズムの勃興期を迎え、作家や記者やエッセイストたちが活躍し始める。
この伝統は20世紀に入っても続き、第1次世界大戦前後に全盛期を迎える。本書に登場するA・G・ガードナー、E・V・ルーカス、ロバート・リンド、A・A・ミルンの4人は、この時期に絶大な人気を誇ったエッセイストたちだ。
著者は英文学者で、英語学の雑誌『英語青年』で長年、英文解釈のコーナーを担当してきた経験を持つ。著者によれば、彼らのエッセーが本国イギリスに負けず劣らず人気を博したのが日本だった。
そのテキストは旧制高校の時代から戦後に至るまで使われ、大学入試や受験参考書にも登場し、英文和訳問題として好まれ尊重されてきた。
4人のエッセーの代表作は前著『たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選―』(2009年)として刊行され、本書はその続編。
日本の新聞や雑誌で読むコラムとややスタイルが異なっていて、日常生活から浮かび上がる人間模様が読者と同じ視線で描かれていて興味を引く。
隣の家のピアノの音がうるさいというので仕返しにブリキ缶を叩(たた)いて邪魔をした男性が裁判に訴えられた事件。帽子のサイズで人間を判断する帽子屋の偏狭な考えへの批判。飼い犬の主人に対する愛情と忠誠心の素晴らしさを、主人にこびない猫の魅力と比較して論じた「家庭の守護神」論など、イギリス人の生活感情が豊かに浮かび上がってくる。
それぞれに共通する論点は、人間には自己中心癖があるが、時には崇高な自己犠牲や献身を示し、人間とはその両面を持った軽蔑すべき、敬愛すべき不思議な存在という認識だ。
増子耕一






