トップ文化バイユーのタペストリー 複雑な歴史を刻み英仏海峡渡る 政争の具として存在も【フランス美術事情】

バイユーのタペストリー 複雑な歴史を刻み英仏海峡渡る 政争の具として存在も【フランス美術事情】

「現在展示されているバイユーのタペストリー ⓒバイユー博物館

2007年にユネスコの世界記録遺産に認定されたフランス北西部バイユーのタペストリーが、英国・ロンドンの大英博物館に貸し出されることになった。同タペストリーは、11世紀にノルマンディー公ウィリアム征服王が英国を征服した歴史を綴(つづ)ったもので、長さは70㍍ある傑作として世界的に知られている。

ただ、英仏海峡を渡る移動は非常にハードで、専門家は同プロジェクトに反対してきた。しかし、マクロン仏大統領は7月8日、英国公式訪問中に貸し出しの決定を発表した。同タペストリーは、フランス王の配下にあるノルマンディー公が英国の王になった両国にとって複雑な歴史を物語るものだ。英国側は歴史的文化遺産をフランスに貸し出す。

筆者は30年前から何度も同タぺストリー博物館を訪れており、その人気は来館者の数からも計り知ることができる。英国は、1956年、エリザベス2世女王の戴冠式の時に、バイユーのタぺストリーを寄贈するよう要請した経緯があるが、実現はしなかった。

日本には戦国時代の合戦を描いた絵巻物や屏風(びょうぶ)絵があるが、単なる戦いの記録ではなく、登場する武将の権威や栄誉を物語性や芸術によって残す目的があった。バイユーのタぺストリーも同様に、1066年のノルマン・コンクエストの勝利者、ウィリアム征服王が主張する勝者の物語として描いたもので脚色されている。

また、タぺストリーと言われるが、実際には亜麻製の糸で織った薄い布に、毛糸による刺繍(ししゅう)を施した刺繍作品というのが正確だ。登場する人間は623人、馬が202頭。猟犬などが55頭など生き物だけで500以上が描かれている。

1000年近くを生き抜いてきたタぺストリーは、常に大切に扱われてきたわけではない。フランスの表舞台に登場したフランス革命時には、武器庫の覆いに使われ、その後、ナポレオンが英国との戦いの参考に所持し、第2次世界大戦ではドイツ軍に接収されていた。英仏の複雑な歴史を綴るタぺストリーは、2026年9月から27年6月まで大英博物館に貸し出される。

27年に祝われるウィリアム征服王生誕1000年を記念する両国の式典にタピストリーは英仏海峡を往復する。ウィリアム王の存在で、英国の上流階級はフランス語を話していた時期もあった。両国は今、アフリカや中東から押し寄せる不法移民対策に苦慮しているが、芸術が政治外交の中心に存在したこともタぺストリーは印象付けている。

(安倍雅信)

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