トップ文化昭和100年を読む 川本三郎『陽だまりの昭和』、関川夏央『昭和的』 生活風俗の細部に現れた時代相

昭和100年を読む 川本三郎『陽だまりの昭和』、関川夏央『昭和的』 生活風俗の細部に現れた時代相

関川夏央『昭和的』(左)と川本三郎『陽だまりの昭和』
関川夏央『昭和的』(左)と川本三郎『陽だまりの昭和』

今年は「昭和100年」に当たり、昭和に関する新刊本が多数出版されている。今年はまた戦後80年でもあり、昭和回顧では、どうしても戦争の暗い時代に焦点が当たりがちだ。そんな中、そういった傾向の本とは少し毛色の違った2冊、川本三郎著『陽だまりの昭和』(白水社)、関川夏央著『昭和的』(春陽堂書店)が店頭に並んでいたので読んでみた。 『陽だまりの昭和』は、昭和初期から戦後の東京オリンピック(昭和39年)あたりまでの市井の人々の生活風俗を拾い集めている。東京オリンピックまでに限ったのは、戦前と戦後では国のかたちは大きく変わったが、市井の人々の生活はさほど変わらず、それが大きく変化したのが東京オリンピック後と考えるからだ。

その頃から、蚊帳、物干し台、紙芝居、ミシンなど多くのものが消えていった。本書では、その消えて行った昭和の風俗を、映画や文学作品などを材料に取り上げていく。

「犬を飼う暮し」では、「子供の頃、捨て犬を拾ってきて、親に怒られ、泣く泣くまた捨てに行った悲しい思い出は、ある世代の人間には誰にもあるだろう」と言う。確かに昭和生まれの記者(藤橋)なども身につまされる。野良犬がいなくなったので、雑種の犬もいなくなり、「少し寂しい」と著者は言う。野良犬のいた昭和の風景が懐かしく思い出される。

「バスの車掌さん」では、かつてバスの車掌に若い女の人が多かったことを思い出した。バスの車掌はかつて女性の花形の職業だった。美空ひばりが車掌役の映画『歌え! 青春 はりきり娘』(昭和30年公開、杉江敏男監督)が紹介されるが、題名からして楽しそうな映画で観(み)たくなる。

このほか、「見合い」「ミシンで自立する女性たち」「名曲喫茶」「銭湯」「原っぱの野球」など消えて行った昭和が懐かしく語られる。しかしただ懐かしいというだけでなく、それらが流行した社会的な背景などが語られ、「そうだったのか」と今にして知るところも多い。

漠然とした回想ではなく、昭和の映画のシーンを元にしている。中でも著者が好きな成瀬巳喜男の映画が多い。確かに成瀬映画は昭和風俗史の宝庫だ。

関川氏の『昭和的』は、主に戦後の生活風俗の中から、「昭和的」なるもの、「昭和的」センスを見詰めるエッセーだ。「昭和的汽車旅・電車旅」では、松本清張の原作で野村芳太郎が監督し橋本忍が脚本を書いた映画『張込み』(昭和33年)が取り上げられる。鉄道ファンでもある著者は、この映画で宮口精二と大木実の2人の刑事が、東京から佐賀までの一昼夜かけて行く真夏の列車の長旅の様子が、丹念に描かれていることに焦点を当てる。

2人の刑事は座席がなく京都・大阪まで通路に新聞紙を敷いて座って行った。昭和30年代にはよく見る車内風景だった。

著者は、独自の切り口で戦後昭和のシーンを振り返り、「昭和的」なものを浮かび上がらせつつ、「昭和的」とは何かを考えていく。

神は細部に宿るという。「昭和」とは何だったのかを考える時、細部にこだわった『陽だまりの昭和』と『昭和的』は、貴重な材料を提供してくれる。

 (特別編集委員・藤橋 進)

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