トップ文化話題の芸道映画『国宝』を観る 映像美で歌舞伎再発見

話題の芸道映画『国宝』を観る 映像美で歌舞伎再発見

「血筋と芸」を巡る葛藤をドラマに

歌舞伎の世界をテーマにした芥川賞作家・吉田修一の同名小説を李相日が監督した映画『国宝』(東宝)を観(み)た。先月30日の時点で公開24日間の興行収入32億円、観客動員数231万人を突破し、今年公開の邦画実写で興行収入1位となった評判の映画だ。カンヌ国際映画祭監督週間部門、上海国際映画祭でも上映され、フランス、韓国、台湾など9カ国で公開が決まっている。

「二人藤娘」を踊る喜久雄(吉沢亮、写真左)と俊介(横浜流星) ⓒ吉田修一/朝日新聞出版 ⓒ2025 映画「国宝」製作委員会

九州の任侠(にんきょう)の家に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、亡父が贔屓(ひいき)にしていた上方歌舞伎の名門、花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ歌舞伎の世界に入る。花井家の後継ぎ息子の俊介(横浜流星)と共に兄弟のように育てられ、稽古に励み、よきライバルとして成長していく。

やがて女形の名優、半二郎も年老い、名跡を継がせるため後継を決めなければならなくなる。そこで芸に厳しい半二郎が指名したのは、息子の俊介ではなく、部屋子の喜久雄だった…。

こうして始まる喜久雄と俊介の「血筋と芸」を巡る葛藤を軸に喜久雄が歌舞伎の人間国宝となるまでが描かれる。約3時間の大作だが、その割に時間を感じさせない。さまざまな愛憎の人間ドラマが展開し、歌舞伎の世界の内側を覗(のぞ)く興味などもあるが、なんといってもスクリーンから目を離せなくする、映像の美しさが大きい。

撮影は、李監督のたっての希望を受けてチュニジアのソフィアン・エル・ファニが担当。歌舞伎を外国人の新鮮なまなざしで捉えている。「二人道成寺」「曽根崎心中」、最後の「鷺娘」など舞台で観るのとは異なるアングルや焦点の当て方などで、歌舞伎とはこんなにも美しいものなのかと、その美しさを再発見する思いがした。

大物役者の親が亡くなり後ろ盾を失った途端、急に役が回ってこなくなったという話など、さまざまな歌舞伎界の裏事情が盛り込まれている。歌舞伎界のタブーに触れるようなところもあり、興行する松竹ではなく、ライバル東宝だから作れた映画とも言える。しかしそんなことを含め、この映画で若い世代の歌舞伎への関心、人気は一気に高まるのではないか。

歌舞伎からは吾妻千五郎を演じた四代目中村鴈治郎(がんじろう)、半二郎の妻は寺島しのぶが演じている。どちらも凄(すご)みのある演技が光っていた。鴈次郎は歌舞伎演技の指導もしたという。

(特別編集委員・藤橋 進)

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