
魔女はドイツ語で「ヘクセ」と言い、語源の古いドイツ語「ハガツサ」は、「垣根の上に座っている魔的な女」という意味だそうだ。つまりこの世とあの世の境、人の住む村と恐ろしい森の境にいる魔物のこと。
女性たちが森や野を利用してきた長い歴史と経験があって、人はそこに魔女と植物との結び付きを見てきたという。
ところが15世紀になると、罪なき女性たちが魔女として迫害され、処刑されるという恐ろしい歴史があった。その罪は天候を左右して農作物に被害を与えたということで、毒薬を作り使用したということではなかったという。
著者はグリム童話の研究者で、昔話や伝説や歴史をひもといているうちに、魔女と植物の結び付きに関心を持つようになったらしい。
現代になると「ハリー・ポッター」の主人公ハリーが魔法薬学を学んだり、『魔女の宅急便』の主人公キキの母親が、魔女の血を引く薬剤師だったりするが、魔女と植物との関係について説明する資料はほとんどないという。
著者はその資料を埋めるべく、昔話や伝説を素材に、「魔女と薬草料理」「植物の持つ魔的な力」「ひとに幸せをもたらす植物」について論じていく。
古い伝説を頼りにしながらも、かつて迫害された被害者とは違う「新しい魔女」像を著者は思い描くようになる。
ヨーロッパには植物園が数多くあるが、魔女が扱った薬草を育てている所もある。修道院や大学の薬草園だ。「薬草魔女」という名前で野や丘をガイドして、薬草について解説する女性たちが登場している。
著者によればドイツでも日本でも薬剤師は圧倒的に女性の職業で、薬草の知識を医療の分野で役立てている薬剤師こそ、「現代の魔女」ではないのかと論じるのだ。
白雪姫の継母からキキまで登場し、魔女についての見方が時代とともに移り変わってきたことがよく分かる。
増子耕一
ヤマケイ文庫 定価1100