石碑に刻まれた文字/道祖神のいる風景

道祖神は村などの境界線に当たる道のそばに建てられた石碑で、「道祖神」という文字や像を刻んである。
集落に侵入する外からの疫病や悪霊を防ぐ民俗的な意味を持つものだが、そのことは忘れられているといっていいかもしれない。
こうした小さな神々は、日本の近代化とともに政府の方針もあって、徐々に滅びていった面がある。ただ、長年の村の人々の伝統的な信仰心が背景にあって民家のそばや小さな祠(ほこら)となって残っているのは間違いない。
大都会の東京でも、こうした片隅の石碑や塚、祠が隠れるようにあり、そこには時には酒や花が供えられたり、掃除されていたりする。
小さな神々へのこうした配慮は、もちろん、高齢者が主に行っているのだろうが、それにしても、不思議な光景である。
道祖神のことを知ったのは、高校時代だった。友人が文芸部の部誌に道祖神についてのエッセーを書いたことがきっかけ。
民俗学という学問の分野があるのを初めて知った。以来、道祖神を見かけると、時々、写真に撮ったりしている。歳月の風雨に洗われた石碑は、年老いた人のように、摩滅して像も文字も薄れているが、どこか昔の人々の祈りの声や念が染みついているように感じられる。
(中山雅樹)