トップ文化関容子『銀座で逢ったひと』 中身の濃い「いい話」を満載

関容子『銀座で逢ったひと』 中身の濃い「いい話」を満載

洒落た会話、粋なやりとり

関容子著『銀座で逢ったひと』(中公文庫)

エッセイストの関容子氏が、タウン誌『銀座百点』に平成30年から3年半にわたり連載した『銀座で逢ったひと』が中公文庫から出た。文庫化に当たり池田彌三郎、野坂昭如、10代目坂東三津五郎の稿が増補された。

文学者や歌舞伎役者、俳優など著者が銀座で縁を持った40人、特別編として兄の眞之助氏が取り上げられている。丸谷才一、6代目中村歌右衛門など、そうそうたる人たちの人物像が生き生きと浮かび上がってくる。銀座のホステスにもてたことが伝説にもなっている吉行淳之介の気配り、ちょっと変わったところで哲学者の梅原猛、野坂昭如などの意外な側面も描かれる。

本書にも登場する演劇評論家の戸板康二にベストセラー随筆『ちょっといい話』がある。軽妙・洒脱(しゃだつ)な文章による面白くていい話が満載されている。本書も、そういった「いい話」や洒落(しゃれ)た会話、粋なやりとりが満載されているが、それに加え中身が濃くて、後に尾を引くような「ちょっと凄い話」もある。

著者は『日本の鶯―堀口大學聞書き』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、これが出世作となる。その大詩人との交流が生まれたきっかけは、丸谷才一がホスト役となり著者が編集を担当した雑誌の対談だった。文章を書く姿勢など、丸谷から受けた懇切なアドバイスなど、なかなかためになる話も語られる。

『堀口大學聞書き』は、あるパーティーで銀座っ子の国文学者・池田彌三郎にそのことを話すと、池田が会場にいた短歌雑誌の編集長を手招きし掲載が即決した。

次に戸板康二の勧めで著者は17代目中村勘三郎の聞き書きに取り組み、4年をかけて書き下ろす。昭和60年1月に帝国ホテルで『中村勘三郎楽屋ばなし』(文藝春秋)出版記念会が開かれる。その席での17代目の挨拶(あいさつ)、6代目中村歌右衛門の祝辞も面白いが、息子の17代目勘三郎が、著者に直接語った御礼の言葉がなかなかいい。役者と物書きの仕事についての深い話で、本書で読んでみてほしい。

かなりプライベートな内密な話もあるが、それは初出が『銀座百点』というタウン誌であったからかもしれない。もちろんただのタウン誌ではないけれど。編集の方針で、取り上げられる人物はみな故人。文末には故人をしのぶ著者の思いがにじんでいる。

(特別編集委員・藤橋進)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »