八郎太郎と辰子姫ら登場
十和田火山の噴火と神社・祭りで大災害記憶

秋田県には「三湖伝説」がある。十和田湖、八郎潟(はちろうがた)、田沢湖が舞台だ。このほど大潟村干拓博物館で、村の創立60周年記念事業として「龍神八郎太郎展」が開かれ、三つの観点から詳しい解説がなされた。
伝説は、八郎太郎が掟(おきて)を破り仲間の魚まで食べたことから始まる。喉が渇き水を飲み続けるうちに龍に変身し十和田湖に住んだ。そこへ、熊野で修行した南祖坊(なんそのぼう)が訪れ龍となり八郎太郎と闘う。敗れた八郎太郎は転々と逃げて八郎潟に住む。
一方、辰子(たつこ)は美しさと若さを永遠に保ちたいと泉の水を飲むうちに龍となり田沢湖に住み着く。八郎太郎は辰子姫に毎冬会いに行くため田沢湖は凍らないという。
展示の説明では、三者とも神社や祠(ほこら)が現存し祀(まつ)られているという。八郎太郎の出生地とされる鹿角市(かづのし)福川(ふくがわ)には八郎祠と、太郎が飲んで育った「桂の井戸」があり、また潟上市(かたがみし)には八郎神社がある。八郎潟ではかつて漁業が活発で、男鹿市潟端(かたばた)には魚の供養碑が設置されている。
さて南祖坊だが、十和田神社には十和田湖の主(ぬし)・青龍大権現として祀られ、熊野神社には鉄の草鞋(わらじ)が奉納されている。
そして辰子姫は田沢湖の湖神(こしん)神社と御座石(ござのいし)神社で祀る。
一方この伝説は平安時代の延喜15(915)年に発生した十和田火山の大噴火と密接な関係がある。過去2千年間で日本最大級の規模で、東北地方に膨大な火山灰を降らし、灰白色の地層は考古学的に年代測定の指標となっているほどだ。会場には泥流に埋もれた家屋の資料(胡桃舘(くるみだて)遺跡)が展示されていた。
火砕流や土石流、火山灰は米代川を流れ下り、鷹巣や大館の街を形作った。米代川は能代から日本海に流れ込むが、その南に八郎潟がある。十和田湖の大被害を忘れないようにとの先達の思いが伝説を作ったのだろうか。
同館が着目したのは、「祭り」で今も受け継がれていること。特に八郎太郎は十和田湖と八郎潟の2カ所で毎年実施される。祭りの担い手の1人が人形劇同好会「八郎」の坂本みほ子さんで、会場には八郎太郎の伝説を伝え続けている坂本さんの紹介と劇で使う龍の実物も展示した。
(伊藤志郎)