テクノロジーによる多様な展示
参加型展覧会などの提案

大規模な修復が必要なパリの世界最大規模のルーヴル美術館には、昨年、約900万人の来館者があった。同美術館では2019年末、イタリアの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの特別展に2カ月半で100万人の来館記録を打ち出した。
今でも巨匠のマスターピースの集客力は極めて高いが、世界に1枚しかないダ・ヴィンチの『モナリザ』ほどの集客力のある作品は少ない。世界の博物館、美術館は芸術作品に新たな命を吹き込むために没入型体験や生成AIを活用した展示方法が、ますます盛んになっている。
パリでは今年1月14日から15日の2日間、ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、博物館と文化遺産の業界の専門家を対象とした見本市「ミュージアムコネクションズ」が開催された。同見本市は業界人を対象にしたものだが、新しいテクノロジーによって多様な展示方法、参加型展覧会などの提案があった。
生成AIの登場で、物語はビジュアル化され、アニメ動画になった。絵画と対話できる会話型人工知能に基づいたインタラクティブな教育体験を開発したベルギーの企業、LMLMが開発した教育ツールも紹介された。
ベルギーのゲント美術館では、ジェニー・モンチニーの「LaBergerie(1907年)」に描かれた女性像について、来館者が質問し、「モチーフの主人公が茶色の靴を履いているのはなぜですか」とか、「彼女はなぜ悲しい顔をしているのですか」「他の登場人物は誰ですか」などと質問すると、人工知能は作品の背景にあるストーリーやアーティストの動機を伝え、スタイルや逸話の詳細を説明することができる。
もしかしたら、答えられない質問をする来館者もいるだろうが、少なくとも作品からの一方通行ではない。興味深いのは小さな子供たちに博物館の雰囲気を味わわせるため、子供の塗り絵作品、歴史上の人物、さらには芸術家の物語を伝えるビデオ・アニメーションに変換する独創的で詩的なテクノロジーも開発されている。
子供たちは登場人物や設定が描かれたシートに色を塗り、無料のアプリケーションのおかげでその後、子供たちが色を塗った画像が生き生きと動き出す仕掛けになっている。これらのフランスのアニメ化版は、主に美術館のショップで本の形で販売され、ルイ・ヴィトン財団、アンジェ城、ポンピドゥー・センターでも買える。
生成AIの普及に伴い、創造性を育む新しいツールが登場したともいえる。無論、賛否両論はあるだろう。米人画家、エドワード・ホッパーの名画『ナイトホークス(夜更かしの人々)』はニューヨークの深夜のレストランのカウンターに座る男女の何気ない姿や他の男性客、店員は、生成AIによって動き出し、鑑賞者も彼らの会話に入っていけるかもしれない。
果たして制作した作者の思いを鑑賞者は正確に受け止められるのだろうか。経済大国の米国が大恐慌に見舞われた時期に描かれたことから、失望感が漂っている絵と言われている。ホッパーの作品は短編小説化されているが、まさか没入型AI映画になるとは当人も思ってもみなかっただろう。芸術の創造性はどこに向かうのだろうか。
(安部雅延)