トップ文化【フランス美術事情】パリノートルダム大聖堂再建の現代芸術の葛藤

【フランス美術事情】パリノートルダム大聖堂再建の現代芸術の葛藤

重要な一角を成すステンドグラス

新しいステンドグラスに選ばれたクレール・タブレ氏の受賞作品=写真はアーティストとロサンゼルスのナイトギャラリー提供

仏女性芸術家、クレール・タブレ氏選定

24万人が新たな設置計画に反対署名

2019年の大火災で尖塔(せんとう)をはじめ、聖堂上部大半を焼失したパリのノートルダム大聖堂は昨年12月8日に再オープンした。年末年始、世界中から参拝者で大聖堂は埋まったとはいえ、再建完了には数年を要するため、工事は続いている。

再建プロジェクトは、さまざまな論争が巻き起こったが、聖堂内は火災前より明るさを増したのは確かだ。だが、数百年の歴史建造物しかない中、完成間もない大聖堂の姿を体験できるのは極めて貴重な経験といえる。今、話題になっている一つはステンドグラスだ。同大聖堂はじめ、フランス各地の大聖堂のステンドグラスは、教会の総合芸術の重要な一角を成す。

ステンドグラスを通して差し込む色鮮やかな太陽光、そこにパイプオルガンと聖歌隊の声が、礼拝参拝者を荘厳な気持ちにさせる。太陽光とガラスが作り出す神秘性が太陽の動きと共に堂内を移動していく。「シャルトル・ブルー」という名で呼ばれる美しい青が特徴的なシャルトル大聖堂のステンドグラスは、中世のステンドグラス文化を代表している。

ランス大聖堂のステンドグラスはシャガールが、南仏ヴァンス教会のステンドグラスはマティスが担当した。火災を経て、昨年12月に再公開が始まったノートルダム大聖堂も南側通路にある礼拝堂の六つの新しいガラス屋根のステンドグラスの制作をするアーティストとして選ばれたのは、米ロス在住の43歳の仏女性芸術家、クレール・タブレ氏だ。

8億4600万ユーロ(約1353億6000万円)の寄付を費やして大規模な再建工事は、火災による鉛汚染などで修復に困難を極めたが、マクロン仏大統領の約束通り2024年暮れにはほぼ完成させた。タブレ氏は100人以上が参加したコンペで選ばれた。祈りを捧(ささ)げる集団をテーマに鮮やかなトルコ石、黄色、ピンク、赤の色合いが提出された受賞作品に描かれている。

制作は、1640年にフランスのランスに設立され、シャガールやミロの作品を手掛けたガラス工房の名工アトリエ・シモン・マルクと協力し、タブレ氏のビジョンを作品に表現する。「戦争、極端な分裂、緊張が特徴の私たちの時代に、ペンテコステのテーマを通じて団結を促進するために素晴らしい希望を私の芸術は表現した」とタブレ氏は語る。

マクロン大統領が2023年12月に発表した19世紀のガラスを交換する400万ユーロ(約6億4000万円)の計画は、フランスの首都で直ちに論争を巻き起こした。というのもステンドグラスは大火災を奇跡的に生き延びたからだ。つまり、鉛汚染の洗浄さえすれば、全てのステンドグラス再利用が可能だった。

結果的に歴史的建造物の保存を規定する1964年に定められたベネチア憲章に従えば、ステンドグラスの一部取り換えは違反の可能性がある。24万人がステンドグラスの新たな設置計画に反対する署名を行っているが、マクロン大統領はステンドグラスの一部リニューアルプロジェクトを進めている。モダンな尖塔提案は、この憲章で没になっている。

マクロン氏とウルリッヒ大司教によって選ばれたタブレ氏の作品がステンドグラスとして設置されるのは2026年の予定だが、論争は続いている。

(安部雅延)

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