トップ文化小川原正道著『「信教の自由」の思想史』

小川原正道著『「信教の自由」の思想史』

行政の裁量権拡大を危惧

宗教・民間主導の第三者機関設置を提言

小川原正道著『「信教の自由」の思想史』(筑摩選書)

国際人権規約にも記された信教(宗教)の自由は、西欧の宗教戦争、宗教迫害という血みどろの歴史を経て獲得された価値である。日本においては明治維新後、その概念が入って来た。「明治維新から旧統一教会問題まで」の副題を持つ本書は、日本における信教の自由について主に法制史に力点を置いて概観し、問題点を指摘している。

全体の約3分の1を割いて、明治以降の宗教法案、昭和14年成立の宗教団体法、非常時における宗教団体の国家による統制など戦前の出来事と議論を丹念に掘り下げている。戦後はGHQ(連合国軍総司令部)による「神道指令」に始まり、宗教法人法の成立とオウム真理教事件を機にした宗教法人法改正問題について、宗教界、知識人、政治家、そして新聞などがいかに受け止め論じてきたかを振り返っている。

その中で、平成8年の宗教法人法の改正の際、憲法学者平野武氏が論文で「宗教的少数者」を抑圧する方向をとることは、「過去の歴史」を経て得た貴重なものを失うことになると指摘していることを紹介している。

平野氏の危惧は、本書の最後に取り上げられた安倍晋三元首相の暗殺事件に端を発した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求問題など、主に新興宗教を巡って現実になりつつある。旧統一教会の解散命令請求に関して著者は、司法がどういう判断を下すにしろ、「この事例が大きな前例となることは間違いない」とし、それ以降は、文化庁が宗教法人の実態を把握し、重要な判断をする必要性が高まるため、「必然的に行政機関の裁量と判断の余地が拡大されることになる」と指摘。「行政機関が肥大化し、それが『信教の自由』と密接に関連する可能性が高いことを考慮するとき、我々はこれまで長い間、行政機関の介入から『信教の自由』を守るために、知識人や宗教者などが奮闘してきた日本の近現代史を、改めて回顧せざるを得ない」と言う。

これら考察を踏まえ著者は、より民主的な枠組みを作ってトラブルを防止するため、民間の第三者機関の設置を提言している。

マスメディアに関して多くは語られていないが、昭和26年の宗教法人法制定の際も、新聞は概(おおむ)ね信教の自由より「インチキ宗教退治」に力点を置いていたことが分かる。日本の新聞の世俗主義的傾向は昔からの体質のようだ。

(特別編集委員・藤橋進)

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