トップ文化“一期一会の風景”を永遠に 国立西洋美術館で「モネ 睡蓮のとき」

“一期一会の風景”を永遠に 国立西洋美術館で「モネ 睡蓮のとき」

睡蓮の絵を鑑賞する来場者

色彩と筆触が奏でる交響曲

表情豊かな水辺の風景

パリのマルモッタン・モネ美術館所蔵の50点を中心にクロード・モネの作品を集めた「モネ睡蓮のとき」が東京・上野の国立西洋美術館で開かれている。モネが晩年に打ち込んだ睡蓮(すいれん)の連作にスポットを当て、その探求の跡をたどる展覧会だ。

印象派の巨匠モネは50歳の時、パリの北西80㌔のセーヌ河畔ジヴェルニーの土地と家を買い取り移り住む。自分好みの庭を造るが、53歳の時セーヌ川の水を庭に引き入れて円形の池を造った。池の中には睡蓮を、周りにしだれ柳やアイリスを植えた。日本風の太鼓橋も架けそれを藤の木で飾った。

庭はそのままアトリエになった。晩年モネは白内障を患ったりするが、86歳で没するまでここで絵筆を取り続けた。中でも睡蓮の連作は最大のモチーフとなる。

野外に制作の場を移し、新しい絵画世界を開いたモネは、外光の中で刻々と変化する風景を描く連作のスタイルを確立する。同じ風景、ほぼ同じ構図ながら、その時にしか見られない風景の表情をカンバスに定着させていく。

1897年作の「ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出」と「セーヌ河の朝」は、その連作の妙味を端的に示す作品。日の出前後の刻々と変化する光や情景を捉えている。この2作を隣り合わせに観(み)ることでそのニュアンスの違い、モネがそれぞれに表現したかったこと、がよく分かる。前者はマルモッタン・モネ美術館、後者は日本のひろしま美術館の所蔵品で、今展は両作を同時に鑑賞できるまれな機会だ。

両作とも水辺の風景を描いているが、モネの作品では水や水辺が重要なモチーフとなってきた。英国ロンドンのテムズ川に架かる「チャリングクロス橋」の連作も水辺の風景で、これも今回、国内外の4作そろっての展示。モネはテムズ河畔の国会議事堂などの連作も残しているが、猫の目のように変わるイギリスの天気には悩まされたという逸話が残っている。

それにしてもモネはなぜ、これほどまでに水辺の風景を好んだのだろう。普通に潤いを感じさせる風景であることもあろうが、やはり光の変化や反射でその表情が常に変化し、それが陸の風景以上に豊かであること、それがモネの制作意欲をかき立てたのではないかと思われる。

睡蓮の連作は、そんなモネの水辺の風景の集大成となるものだ。蓮(はす)池の水面には、ある時は青い空と雲が映り、ある時は夕焼けの空が映り、その表情は一様ではない。それはいつもの池の風景ではあるが、モネにとって、まさに一期一会の風景だった。そんな風景との対話から一つの理想的な画面を追求した。

1921年にジヴェルニーのアトリエを訪れた洋画家、和田英作が、モネの「睡蓮」の近作を観て、「色彩の交響曲」と評したところ、モネが「その通り」と答えたという。今展では、快い色彩のハーモニーとともに、かなりはっきりと残る筆触もその交響曲の重要な要素のように思われた。しだれ柳の葉や睡蓮の葉を描いた筆触も軽やかな音楽を奏でているのである。

モネは晩年、睡蓮の巨大な装飾画でジヴェルニーの池を再現した美術館の構想を立て、制作に取り組む。その構想は、モネの死後、パリのオランジュリー美術館として実現する。今展でもその会場を模した一室が設けられている。

国立西洋美術館での展示は来年2月11日まで。3月から京都市京セラ美術館、6月からは豊田市美術館で開催。

(特別編集委員・藤橋進)

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