風景画に自らの心を描き込む

パリのオルセー美術館で展示
印象派作品 最大のコレクション
印象派を代表する日本でも高い人気を誇るフランス人画家、クロード・モネは、マティス、ルノワールと並び、フランスが誇る巨匠の1人だ。パリ西方にあるジベルニーの住居には大量の浮世絵が飾られ、印象派の画家たちへのジャポニスムの影響を物語っている。
そのモネの代表作の一つで長い間、個人所有で人の目に触れることのなかった「ディエップ近くの崖の上」(1897年作)が、所有者の相続事案で相続税や譲渡税の代わりに国に寄贈され、修復の上、パリのオルセー美術館に展示されている。
作品は、ノルマンディーのアラバスター海岸でモネが描いた最後の連作の一つで、プールヴィル近くのヴァル・サン・ニコラから眺めたディエップの崖の景色を表しており、空気と光を描いたモネ作品40点には珍しく、同美術館にはない作品としている。
モネは「私にとって、風景は実際には風景として存在しない。なぜなら、その外観は常に変化するからだ。しかし、それは空気と光という絶えず変化する環境の中で生きている」「私にとって、環境だけが主題に真の価値を与える」と1891年に説明している。それは、ルーアン大聖堂と向き合った連作で光と空気の変化を描いた経験から得た抽象的な性質の虹色の光だ。
そのルーアン大聖堂の連作もオルセー美術館の34号室に展示されている。モネがノルマンディーで制作に取り組んだ時期は、友人の画家カイユボットやモリゾを亡くし、妻と義理の娘が病に侵されたころで、モネの悲しみと喪失感が作品の淡く繊細な色使いに込められている。ディエップの早朝と思われる風景は、モネの心象風景と重なる。
「ディエップ近くの崖の上」は1903年までは、モネのアトリエに保管され、その後、過去4回の印象派展に参加した画家、ヴィクトル・ヴィニョンの慈善セールのために出品され、1910年にはパリで展示された。その後、1958年から個人所有として姿を現すことはなかった。
モネ作品は光と影双方の中にさまざまな色や明度、形が描き込まれ、画家が風景から読み取る情報量の多さに圧倒される。普通の人間の目の数万倍の色彩や形を読み取る能力がモネにあったことで、作品は深みを増し、何度見ても新しい発見がある。
1880年代、モネは弟のレオンの招待を受け、ノルマンディー海岸に滞在し、その自然に魅了され、海洋画がモネ作品の重要な部分を占めるようになった。当時、海岸線は観光化されておらず、美しい自然がそのまま存在した。ただ、当時、彼独特の抽象化された印象派の絵には至っておらず、1885年に描いた「エトルタの断崖」も具象的だった。
今回、オルセー美術館に展示された作品は、単純化された構図の中にモネ独自の視覚に入る自然を超えた深みと味わいがはっきりと見てとれる。「ディエップ近くの崖の上」が加わることで、モネの絵画を含む印象派作品の最大のコレクションをオルセー美術館は完成させた。
(安部雅延)





