仏で発掘された米国人画家
社会的弱者描く温かい眼差し

富豪の多いアメリカのコレクターによって世界的に有名になったフランス人画家は少なくない。その代表格、ピエール=オーギュスト・ルノワールはアメリカのコレクターや美術愛好家の間で高く評価され、高額で取引された。クロード・モネも同様な評価を得た画家だった。
実は逆の例もある。フランスで注目され、高い評価を得ながらもアメリカではなかなか日の目を見なかった画家が最終的にアメリカで評価を受ける画家になった例もある。その1人、シカゴで活躍したロバート・ガイナン(1934~2016年)は、社会的弱者の黒人などを描き続けた画家だった。
現在、フランス第2の都市リヨンにあるリヨン美術館で開催中のガイナンの回顧展(8月27日まで)は、今も彼の作品に対する温かいまなざしを感じる。
今回の回顧展は、1981年のグルノーブル美術館と2005年のローマのアカデミー・ド・フランスでの展覧会以来、フランスの美術館で行われる初めての大回顧展だ。
第2次世界大戦の終戦時に10歳だったガイナンは、大量消費社会で景気に沸くアメリカに生き、当時、世界を席巻したアメリカンアートの抽象表現主義やポップアートの洗礼を受けた。同時に彼に感銘を与えたのはムーランルージュなどのキャバレーの人間たちを描いたことで知られる19世紀にパリで活躍したロートレックだった。
人間の観察眼に秀でたガイナンは、ロートレックが描く人間模様やエドガー・ドガの描く人間たちに強く感化され、彼はシカゴの場末で疲れ切った姿の黒人たちを描き続けた。それもロートレックが知人の男女を描いたように、心の内面まで知る親しい黒人の友人たちの平凡な日常の姿を描き続けた。
今回の回顧展では1965年から2002年までに制作された約80点の作品が集められている。
二つのシリーズのリトグラフによって補足され、一つは奴隷制をテーマにしており、もう一つは英国の平和主義作家オーウェンの戦争詩に触発されたものだ。
実は画家としての生活が苦しいガイナンに注目したのは、ウィーンの画商で、そこからフランスの画商が作品を買い付け、パリで紹介したのが1970年代だった。その後、フランスの当時大統領だった故ミッテラン氏がガイナンの作品を気に入り、買うようになったという。
有名になったガイナンを取材した米ニューヨークタイムズの記者が書き残した記事によると、フランスで左派の政治家に評価されたことに対して、ガイナンはまったく「絵とは関係のない話だ」と政治信条との関係性をきっぱり否定したという。
西洋絵画の中では黒人は奴隷制の時代から描かれてはいたが、当然ながら白人と同じようには扱われていなかった。マティスなど近代絵画の画家が人種差別を超えて、美の感動の世界として描かれるようになり、ガイナンも深く人間性を掘り下げた作品を多く残した。
ガイナンにはアメリカの良心を感じさせるものがある。彼がいつも社会の影の部分で生きる人間を気に掛けていたことがよく理解できる。
ピカソも一時期、娼婦やピエロの物悲しい姿を題材にした時期があった。ガイナンの作品からは黒人たちへの彼の温かいまなざしが感じられる。
(安部雅延)







