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食欲の秋である。テレビのグルメ番組や旅番組…


 食欲の秋である。テレビのグルメ番組や旅番組で、ゲストやアナウンサーが食べるシーンはいまや当たり前となった。そして必ず「おいしい」とか「柔らか~い」など感想を一言二言述べる。

 しかし大体は月並みな言葉で、おいしさは伝わってこない。無理して言っているように聞こえる時もある。

 これは仕方のない面がある。日本の文壇を代表する健啖家で『最後の晩餐』など数々のグルメ・エッセーを著している開高健も「食べ物というのは味覚でしょう。だから書きにくいわね」と述べている。ではどうするかというと「その周辺にあるもので攻めていって、ああうまそうだなァという雰囲気を作っていくしかないの」(「一言半句の戦場」)。

 テレビでグルメ・リポートをしている人は、いろいろおいしいものが食べられてうらやましいようにも思えるが、ちょっと試食して別の料理に移り、またその感想を述べている。こんなせわしない食べ方をすると、かえって不満足な状態に置かれるのではないか。

 英文学者で作家の吉田健一はグルメ・エッセーでは開高の先輩に当たる。雑誌で食べ歩きのエッセーを連載したときの感想として、そんなに楽しいものではないと書いている。

 記事にするために食べた先から手帳にメモを記さなければならないからで「それをやっていては、大概のものがまずくなる」という。(「舌鼓ところどころ」)。何を食べるかとともにどう食べるかも重要だ。