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かつて米国を旅行した時、ワシントンDCの…


 かつて米国を旅行した時、ワシントンDCの地下鉄の駅で、路上演奏者に出会ったことがある。人々が行き交うざわついた場所で、黒人男性がフルートでバッハのソロ・ソナタを演奏していた。

 立ち止まって聴いていると、名演奏と言えるほどではないが自然体で、難しいパッセージも力技でこなしていた。楽器は彼の人生と共にあったのだろうと思い、その個性的な響きが旅の印象として残った。

 東京でも同様の体験がある。上野公園ではプサルテリオンという珍しい楽器の演奏を聴いたし、新宿駅ではバイオリン、井の頭公園ではフルートの演奏を聴いた。彼らはみな若かった。

 上手に演奏するというよりは、観客の心を引き付けてコミュニケーションを取るレッスンをしているようにも感じられた。客は拍手をしてポケットマネーを置いていく。フランスの映画監督ルドヴィク・バーナードさんは、パリのベルシー駅で電車を待つ間、ピアノを弾く青年を見掛けた。

 駅備え付けのピアノだ。青年はショパンのワルツを驚くほど見事に演奏した。バーナードさんは魔法をかけられたようになり、電車に乗ってからも、なぜあれほどの演奏ができるようになったかを考え続ける。

 やがて想像を駆使して、映画「パリに見出されたピアニスト」を製作。教育を受けられなかった若者が、ある出会いを通して夢を成就させる物語だ。9月に公開予定の作品。プロにならなかった音楽愛好家の層は厚い。