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「青葉渡るあるかなきかの薫風に一ひら…


 「青葉渡るあるかなきかの薫風に一ひら一ひら白藤の花」(中根三枝子)。東京・中央区にある浜離宮恩賜庭園を散策していると、藤棚に藤の花が咲き始めていた。花房はそう長くはなかったが、新緑の中であでやか。

 歌人の中根さんは万葉植物の研究家で『万葉植物歌考』(渓声出版)の大著がある。それによると万葉集に藤の花を詠んだ歌は26首あり、「藤衣」の歌があるのは藤蔓(ふじづる)が衣服の材料になったからだ。

 また「藤波」の歌があるのは、花が風になびくところから浪(なみ)に見立ててのことだろうという。古代人の心を捉えてきたが、藤棚ではなく自然のままの古木であったり、松などの梢(こずえ)に巻き登って花を垂れていたりしたようだ。

 この花について、来月公開される韓国映画「リトル・フォレスト」の中で、面白いシーンが登場する。この作品は、恋愛も就職もうまくいかなくて、大都会から故郷に戻ってきた若い女性の物語。

 父親はすでに亡く、母親も家を出て音沙汰がない。農家の家で1人暮らしを始めるが、すぐに友人たちがやって来て交流を再開。主人公ヘウォン(キム・テリ)が始めるのは野菜の栽培だ。

 料理と食事の映画と言っていいぐらい、四季折々の野菜や山菜が登場する。料理は蒸し餅、すいとん、チヂミ、パスタ、ジャガイモパンなどだが、出てくる名料理の一つが、白い藤の花房を使った天ぷら。油でさくっと揚げて、出来立てを口に入れる。初夏を食べるようなシーンだ。