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「団欒(だんらん)の家に出初めし春蚊かな」…


 「団欒(だんらん)の家に出初めし春蚊かな」(三宅清三郎)。桜の花の盛りが終わるとともに、時ならぬ暑さに見舞われている。ここ数日、初夏のような天候で、脱いだ上着を抱えながら歩いている会社員を見掛けた。

 この時期は暑くなったり寒くなったりするので油断できない。北海道置戸町の境野では17日、25度を記録して夏日となったという。風邪を引いたりすると長引きそうだ。

 暖かくなると、部屋の隅に隠れていた蚊が蠢動(しゅんどう)してくる。俳句には「春の蚊」という季語があり、歳時記には「春出る蚊である。春の宵など、思いがけず出て来る蚊は、翅音もか細く姿も弱々しい」(稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』)とある。

 歳時記では弱々しいとあるが、先日の真夜中に耳元でした蚊の羽音はかなり強く、驚いて飛び起きてしまった。冬を越えて生き延びた蚊だろうが、暖房器具が発達した現代では、冬も暖かな環境のために蚊も元気なのかもしれない。そういえば、風呂の蒸気を通す管に止まっていたハエもいた。

 「冴返り又居ずなりぬ春の蠅」(高浜虚子)。人間にとって快適な環境は、虫たちにとっても過ごしやすいということだろう。

 季語も死語となるものが少なくない。旧暦と新暦の違いやずれによって、そうなってしまった面もあるが、最近の温暖化による異常気象などを見ると、実際に今後、季語が意味をなさなくなる事態もあり得る。それは日本人の精神の危機でもあると言っていい。