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明け方の冷え込みは一段と厳しくなったが、…


 明け方の冷え込みは一段と厳しくなったが、大晦日(おおみそか)の東京の日中は日差しを得て穏やかな日和となりそうだ。近くの広場のイチョウや欅(けやき)の大木は、大胆な刈り込みで梢(こずえ)や枝元が取り払われたのと、強い季節風であらかたの葉を落としたのとで、天に伸びる幹も枝も裸である。

 透明な青い空。冬の日が幹や梢の間を抜けてさしかけ、辺りは明るい。低木の山茶花の濃い緑葉に埋もれる花の紅さも照らし出す。悪くない佇(たたずま)いだが、薄黒く写る梢や枝を見上げて「清々しい」と思う人もいれば「木が寒々として可哀そう」という人もおられよう。

 実際この時節、役所には賛否それぞれの声が届くという。藤沢周平の短編集に最晩年の境地を伝える『静かな木』(新潮文庫)がある。

 表題作は、老境の主人公の心象を馴染みの寺の木に重ねた描写が心に響く。「……幹も、こまかな枝もすがすがしい裸である。/その木に残る夕映えがさしかけていた。遠い西空からとどくかすかな赤味をとどめて、欅は静かに立っていた。/――あのような最期(さいご)を迎えられればいい。/ふと、孫左衛門はそう思った」。

 短編は主人公が巻き込まれた事件が片付いたあと、こう結ぶ。「――生きていれば、よいこともある。/孫左衛門はごく平凡なことを思った。軽い風が吹き通り、青葉の欅はわずかに梢(こずえ)をゆすった。孫左衛門の事件の前とはうってかわった感想を笑ったようでもある」。

 年越しそばに除夜の鐘。よいお年を。