世界日報 Web版

「雨ふれば少しあたゝか蕗の薹」(高田風人子)…


 「雨ふれば少しあたゝか蕗(ふき)の薹(とう)」(高田風人子)。蕗の薹とは、湿地帯に群生するフキの花茎のことをいい、春先に地面から顔をのぞかせ、食用にもなる。フキ味噌(みそ)はその代表的なもの。

 早春に伸び出すので、芽に誤解されやすいが、葉ではなく花茎である。稲畑汀子編『ホトトギス新歳時記』には「蕗の薹」という季語について「蕗は雪の残っている野辺や庭隅に、卵形で淡緑色の花芽を出す。これが蕗の薹である。柔らかい苞(ほう)に幾重にも包まれており、煮たり汁物にしたり、練味噌にして食べると、ほろ苦く早春の香りがする」とある。

 蕗の薹は苦味が特徴だが、それが冬の重苦しい気分からの解放と重なり、何とも言えない味わいがある。雪が解け始めた大地から顔を見せる蕗の薹は、まさに春の使者と言っていいだろう。

 春の到来に、自然や植物を詠むのは日本の伝統文学。だが、かつては梅や桜などの花をテーマにするのが普通だった。大地に芽生えるものを詠むのは、近現代になってからのものが多いのではないか。これは正岡子規の革新運動、森羅万象の「写生」のための観察が背景にあろう。

 短歌の方でも、アララギ派などが写生によって身近な風物を詠むようになった。アララギ派を代表する歌人・斎藤茂吉には、春の歌として「あづさゆみ春は寒けど日あたりのよろしき處つくづくし萌ゆ」がある。

 「つくづくし」とは土筆(つくし)のこと。昭和28(1953)年のきょうは茂吉の忌日に当たる。